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ポイントカードマーケティング論 そのⅤ ~緊急提言 ポイント2%還元策を徹底検証する~
IR・カジノとキャッシュレスに関して連載をしていますが、降って沸いたような政府のポイント還元案が国会で論議されそうなので、4回前まで掲載をしていた「ポイントカードマーケティング論」に戻し、私なりの視点を述べたいと思います。
消費税10%実施の緩和策として、中小店を対象にキャッシュレス決済をした国民に、その利用額の2%をポイントにして還元するというのが、施策案の骨子です。
政府の中からは、一石二鳥、一石三鳥を狙った策だとの声も聞こえてきます。しかし本当にそうでしょうか、もしかしたら「二兎を追うものは一兎も得ず」という事態を招くことにならないのか、筆者なりの経験を踏まえて、検証をしたいと思います。
ポイント2%還元の概要
まず消費税10%の反動として、駆け込み需要と導入後の落ち込みが景気に悪影響を与えると予想し、その反動をできるだけ緩和したいとする政府のねらいの一つがポイント還元2%策です。(政府側の意見)
ただし条件として
①中小店に限定(具体的な対象基準はこれから)
②キャッシュレス決済に限定(キャッシュレス決済の種類対象もこれから)
③導入は消費税10%実施(来年10月)と同時、期間は1年未満を予定
④決済額の2%相当をポイントで還元(ポイントの種類はこれから)
⑤キャッシュレス決済からポイント還元スキームに関しては未定
⑥中小店の端末機設置に補助金を出す
⑦中小店でのクレジットカード決済等の加盟店手数料の低廉化を各カード会社に政府が要請する。
などが、これまでに判明しています。
この条件から、ある程度の構想は予想が付きますが、実際の運営スキームや実施要項、システム開発など、実現化に向けての具体的な詳細が発表されていませんので、想像を巡らした筆者の個人的な見解です。
ポイント2%還元策を解剖する
どのようなキャッシュレス決済が今回の対象になるのか明確ではありませんので、例を挙げて考えたいと思います。
例えばクレジットカード決済を例にすると、
ポイント還元率の違い
クレジットカード会社またクレジットカードの種類によりポイント還元率は異なり、その交換価値も異なっています。何を基準にして2%還元とするのでしょうか。単に1ポイント=1円相当とする図式に当てはまらない事例が多々あります。1ポイント=5円の場合は、2%で10円の税金を補助する、1ポイント=1円の場合は、2%還元で2円を補助することになり、不公平な制度になってしまいます。
中小店選択の限界
中小店に限定したクレジットカード利用が対象になるわけですが、普段大型店を利用する消費者が、ポイント2%還元のために中小店に購入先を変えるでしょうか。普段から価格や品揃えを理由に大型店を利用する消費者にとって、2%還元よりも大型店の価格が有利であることが多く、とてもモチベーションにはならないと考えられます。
ポイント交換の現状への理解
クレジットカードのポイントを貯めている人の多くは、ポイントを商品券やギフトカード、マイレジ―など付加価値の高いものに交換するケースと、大型店が発行する電子マネーやポイントに交換する事例が多く見られます。
そうなると中小店の加盟店手数料から捻出される発行ポイント(通常ポイント+還元ポイント)の多くは大型店に流れていきます。こうしたポイントスキームを中小店がどこまで理解できるかです。であれば自社ポイント(商店街ポイントなどを含め)を発行している中小店は積極的にはなれないと思われます。
例:セゾン永久不滅ポイント
ポイント退蔵(未利用)の処理
ポイントの退蔵分処理ですが、クレジットカード会社のポイント退蔵率はかなり高いと思われます。2%還元といっても、全てが消費者に利用されるわけではありません。退蔵する無駄なコストをどの程度に見積もっているのか、全く明らかではありません。このままですと退蔵分はクレジットカード会社の雑収入になる可能性があります。
有効期限の有無
それに関連して、クレジットカード会社のポイントは無期限と有効期限付の2種類があります。2%還元分の利用に関して他のポイントと最終的に区別はできないでしょうから、有効期限付きは有効期限内に利用されない場合は失効します。一方で無期限の場合は利用されないまま残ることも考えられます。還元ポイントはカード会員の意思に関係なく付与されるわけですから。
具体的な目標は
実際にポイント2%還元策で、クレジットカード決済額をどの程度伸ばして、消費税10%の落ち込みを支えようとしているのでしょうか。既にここ4年間のクレジットカード決済額は前年比で8%~9%の増加を示しており、2%還元で前年比何%アップを見込んでいるのでしょうか。
キャッシュバックへのおすすめ
もしどうしても実施いたいのであれば、ポイント還元より、キャッシュバック(毎月の請求額から2%相当分の金額を相殺する)の方が、シンプルで退蔵などの無駄もなく、多くのクレジットカード会社も参加可能で、分かり易いと思うのですが。
中小加盟店に限定することを解剖する
全国規模のフランチャイズチェーンでは、直営店を除く加盟店がポイント還元の対象になるようですが、直営店に関してはチェーン本部にポイント相当分の負担をお願いしているとのこと。
日本FC協会の統計データから
確かに全国規模のフランチャイズチェーン除いた中小店だけではパワー不足で、全国規模の消費の喚起など望むべくもありません。
しかし上記の③・④で指摘しました通り、フランチャイズチェーン独自のポイントと違い、本社負担のポイントが加盟店で利用される確約もなく、退蔵したポイントの負担損だけがチェーン本部に圧し掛かります。
その他、提携カード<クレジット&電子マネー&ポイントなど>も多様な形態があり、これらもスムーズ(消費喚起)に進めることができるのか疑問も残ります。
中小店向けのシステム改修は間に合うのか
クレジットカード会社の請求書・明細書では、非対象店と対象店に分ける必要があり、こうしたシステム改修が来年10月実施に間に合うのでしょうか。
例えば
①対象店は従来ポイント+還元ポイント=ポイント合算の合計
②非対象店は従来ポイント
総合計ポイント=①+②
など、SCなどでは対象店と非対象店が混在するケースも予測され、システムだけでは解決できない、SCの統一イメージ(契約を含め)にも波及しないでしょうか
FCの大企業契約店のコストは
全国規模のフランチャイズチェーンの加盟店の中には、大企業系列の加盟店もあり、その場はポイント還元対象になるのか。またならない場合はフランチャーイズチェーンの契約内容にもよりますが、ポイント負担をどうするのかという課題も残ります。
全ての中小加盟店が対象となるのか
中小加盟店の中には、医院(保険対象外)や女性接客業(クラブやスナック)、各種個人営業(物販からサービスまで)があり、特に決済代行会社に紐づいたケースも多く、全業種を対象にするのか、制限を設けるのか明確にする必要があります。
高齢者店舗の対応は
高齢者がお店に立って商売をしいる中小零細店では、端末機の操作やカード利用の説明をしきれるでしょうか。まして半年から1年程度の短期間での実施ですので、期間過ぎればカード利用顧客も少なくなり、端末機を操作する機会も減少、埃を被った端末機の姿が目に浮かびます。
ポイント還元と手数料率を解剖する
政府はクレジットカード会社の中小加盟店の決済手数料を下げるように要請をするとの報道がでていましたが、果たして正しい選択なのでしょうか。少なくとも、手数料だけを下げるだけでは解決しない課題が多く横たわっています。
消費者にとっては、加盟店手数料率の高低は関係ないことなので、勝手に決めてもらえばよいと考える人も多いと思います。しかし、これまで当コラムで指摘してきた日本独自で発展してきたビジネスモデルの延長線上で、決済手数料の低廉化を強引に進めると、クレジットカード会員に様々な影響が出てくることが予想されます。
日本のクレジットカード会社の収益のベースは加盟店手数料です。キャッシングやリボによる収益もありますが、日本では海外のクレジットカードと違い収益の柱には育っていません。クレジットカード決済の80%を占める1回払いでは会員から手数料は徴収していないため、加盟店手数料からビジネスコストを賄っています。
エンハンスメントサービスへの影響
会員に直接影響を与えることが予想されるものとして、年会費の無料化やエンハンスメントサービスがあります。エンハンスメントサービスとは、クレジットカード会員に提供している付帯サービスで、
・ポイントサービス、キャッシュバック、割引サービスなど
・国内外旅行傷害保険、ショッピングプロテクト保険など
・航空ラウンジサービス、各種予約サービス、アシストサービスなど
・会員情報誌、利用ガイドなど
カード会社やカードのグレードなどにより無料、有料を含め異なります。カード偽造等の被害も保険によって救済されるのも、このサービスがあるからです。
もしクレジットカード会社のメイン収益が下がれば、こうしたエンハンスメントサービスに関しても、無料から有料化へ、品質維持・管理の低下、ポイントサービスなど優待サービスの低率化など、消費者への影響も十分に考えられます。
政府のポイント2%還元(最長1年程度)を提供するから、加盟店手数料を下げろということは、クレジットカードが築いてきた付加価値を下げろということに繋がりかねないということだと筆者は危惧しています。
何もクレジットカード会社の味方をするつもりはありません。また加盟店手数料が海外と比較して高いことは以前コラムでも指摘し、その背景も説明してきました。
昔の話ですが、国土交通省(旧建設庁)の企画官から、ETCのクレジットカード手数料に関して相談を受けたことがありました。詳細は避けますが、結果的に筆者のアドバイスが手数料低廉化に影響を与えることになりました。
クレジットカード会社から見れば、多少苦々しい思いもあったとは思いますが、ただあるクレジットカード会社の幹部と話した時に、厳しいがETCであればとの本音も聞かれ、密かにアドバイスは間違っていなかったと胸を撫で下ろしたことを思い出します。
しかしポイント2%還元を条件に、中小店(全国規模のフランチャイズチェーン含む)での手数料低廉化要請は、ETCの手数料低廉化と全く背景や条件がことなると実感しています。
中小店のキャッシュレス化促進など一石二鳥が期待できるか
中小店のキャッシュレス化が進まない背景に、海外と比較して加盟店手数料が高いと内閣府(経産省)では指摘しています。では加盟店手数料が下がれば海外並みのキャッシュレス化が進むのでしょうか。
当コラムでも以前に指摘しましたが、キャッシュレス化が遅れているというよりもカード決済比率が海外と比較して低いというのが正確な表現で、広義のキャッシュレス比率(自動振替・口座送金など口座振替、8社以外の電子マネー・プリペイド決済など)は約40%あると推測されており遅れているとは言い切れません。
その意味では、カード決済比率を伸ばせば、さらにキャッシュレス化が促進されることは容易に考えられますが、キャッシュレス化を担っているクレジットカード決済比率(対民間家計消費出)は、この4年間毎年前年比約8%も伸びており、海外と比較して極端に低いのはデビットカード決済で、このデビットカード決済を伸ばさなければ、カード決済、ひいてはキャッシュレス決済比率を伸ばすことはできません。
しかし今回のポイント2%還元策のメインターゲットはクレジットカードで、デビットカードの影は見えていません。
単に中小店に端末設置数を増やせばよいとか、ポイントを2%還元すればなどの小手先ではとてもキャッシュレス化が進むとは思われません。
どうも課題が多すぎるようで、ついには「希望する中小店で結構、手数料を下げ、ポイント処理のシステム対応ができるカード会社にだけに対応する」との信じられない方向も示され始めたようです。
キャッシュレス化はイノベーションと直結する課題であり、核心的アプローチからでなければ、とても「キャッシュレス革命」の実現など無理と筆者は考えています。
消費税の緩和策、キャッシュレス化の促進、インバウンド対策の一石三鳥は机上の理論と言い放すのは本意ではないのですが、その本意を翻させる政策理念・コンテンツが見えてきません。
これ以上は、具体的な政策案が出てから改めて検証したいと思います。
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