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公開日: : 最終更新日:2018/08/20
ポイントカード・マーケティング論 そのⅢ
「働き方改革」法案が衆議院で可決、参議院に送致されました。それぞれ立場により賛成反対はあると思いますが、人口減少社会の到来、AI(人工知能)やIOTの加速度的な進展による社会構造の変化など、これまでに経験をしたことのない時代がやってくることを前提に、労働環境や雇用の形態を是非論議して頂きたいと思うのですが。
気が付いたらロボットが職場を占領、彼らはよく働くしパワハラも就労時間の規制もない。夢でもなく量子コンピュータが実用化されたらイノベーションの速度は現在の比ではないとも言われています。
近未来を考えて今何をすべきなのか、世界はその方向にシフトしていることは、日々のニュースやネット情報で日本の国民は肌で感じ始めています。
しかし、その先頭に立つべき政治の世界は、100年前にタイムスリップした前近代的な人種(言い過ぎですかね?)に占領され、本当に大事なことが国会で論議されていないと思うのは私だけでしょうか。
以前、野村総研ニュースで「人工知能やロボット等による代替可能性の高い100種の職業」と「可能性の低い職業」が発表されていました。
野村総研ニュースから
「働き方改革」の必要性は、こうした将来像を踏まえただけでもひしひしと伝わってきます。
働く現場でのAIやIOT化により決済環境も変化(キャッシュレス化、無人決済など)し、それに関連するATM・各種端末・自動機などのハードの変化、現金の補給業務などソフト・サービス面の変化が現実に起り、働き方も劇的に変化していくことが容易に予想されます。
このような見通しに立って、賛成・反対の二者択一ではなく柔軟な選択肢と深堀をした政策議論を期待したいと思います。
では、ここから本論に戻ります。
ポイント導入に伴う収益構造の変化を考える
流通小売業でのスタンプ導入に際して、平均客単価だけでなく、平均来店客数、平均買上げ個数、平均単品価格、経費率(荒利益率-純利益率)、来客一人経費、客単価採算分岐点などをレジロール分析等から算出、同レベル他店舗と比較して強み・弱みの把握、さらに具体的な改善点を指摘しながら、スタンプの効果的導入、プロモーションの効果的実施計画を策定していたと前回述べました。
ただスタンプサービスでは、このような手法の実施には想像以上の労力・負荷が掛かり、ルーチン化は難しい状況でした。
しかし現在のポイントカードでは、これまでアナログ処理されていたものが、コンピュータ、ネットワークの進展により省力化(情報収集、処理能力、分析能力の高度化)され、効果的なポイントプロモーションの策定以外に、OnetoOneマーケティングやカスタマーロイヤルティプログラムにも、日常的に活用できる環境になりました。
さらにもう一つの試みが、利益構造の面から値入率を変えずに荒利額、利益額をアップさせるモデルの達成です。
スタンプにしてもポイントにしても一定の導入費用、運用コストが掛かるわけですから、その費用をどこから捻出するのか、単純に値入率を上げて賄う、あるいは他の販促費を見直すなど、企業により異なるとは思われますが、考え方の一例を紹介します。
①スタンプ導入により売上高をアップさせ荒利益額を増加させる。荒利額の絶対額が増えることで、固定経費率を減額、純利益率を増加させるモデルの一例。
②値入率を変化させずに純利益を確保するモデルの一例
ポイント導入経費は、導入時(ハード等)のイニシャルコストとポイント原資などランニングコストに分けられますが、導入時のハード面に目が行きがちですが重要なのはランニングコストに対する視点です。
上記の①、②はスタンプ導入コストと効用を考える上で、荒利額の増加と収益構造の変化に視点を置いた流通小売業の単純なモデル例です。
実際には複雑な経営数値や事情もあり、必ずしもこのようなモデルでは解決できないことは承知をしていますが、ポイント導入の際にも欠かせない視点だと考えています。
ポイント費用負担の基本を理解する
ポイント原資の負担は、ポイントが利用(交換)されて初めて発生します。
ハウス型では消費者がポイントを利用した時点ですが、提携型の場合は、提携先のポイントや電子マネーに交換した時であり、専門会社のポイント加盟の場合は、ポイントを消費者に発行した時点(月締め精算)となります。
ハウス型ポイントサービスでは、発行から利用まで自社が負担する方式ですが、提携や専門会社、組合方式のポイントサービスでは、発行を加盟店が負担、専門会社は利用(発行分から消費者に還元)分を負担する方式が一般的です。
専門会社、組合のポイントはローカルシステム(スタンドアロン端末)が主流の時は、ポイント価値がエンコードされたマスターカードを事前に購入するなど加盟店側の負担が先に発生するスキームでしたが、技術、ネットワークが進展した現在では発行と利用の精算を一定期間で行い差額を負担する方式になっています。
これに伴うポイントシステムの機器設備、管理ソフトなどの諸費用の負担は、原則加盟店側になっていますが、ポイントサービス専用の場合と他のカードシステムなどとの併用が可能な場合によっても負担内容は異なっています。
一方ポイントの実質負担についても簡単に述べておきます。各社のポイント発行率を見ると、レギュラーポイント(通常発行)では0.5%~2%、プロモーションやボーナスポイントがキャンペーンに合わせて追加発行(2倍~10倍)されることが一般的です。
具体的には100円で1ポイントのケースが多いのですが、よく考えると次のようなことが分かります。
①100円で1ポイント(1ポイント1円で利用)ということは発行率1%で、100円以下の利用は切り捨て、199円でも100円買上げに換算されています。
199円で1円分の還元ですから約0.5%の負担で済むことになります。
②100ポイントを店で利用した場合に、店の商品は店頭価格でカウントされ利用することになります。店の商品は通常仕入価格で仕入れていますので、店側の実質負担は仕入価格の負担になります。
100ポイント(負担率0.5%~1%)で店頭価格100円(仕入価格70円)の商品を提供すれば、店側の実質負担率はさらに低くなります。
③クレジットカード会社の場合は、発行率0.5%が基本例になっていますが、ポイント利用に関しては、キャッシュバック、ギフト券、他社ポイント、電子マネー、各種商品など交換メニューにより実質の還元率は異なります。
例えば自社ギフト券の場合は、額面とポイントが等価(そうでない場合もありますが)交換であっても、そのギフト券が使用された段階で、クレジットカードと同等の決済手数料がカード会社に入ってきますので、その分は負担率が軽減されます。
これらは一例ですが、ポイント原資負担に関しては交換されるメニューにより実質の負担率は異なっています。わずかな負担率の違いでもポイント経費の絶対額が大きい場合は、経営に少なからず影響を与えることになります。
ポイント交流を理解する
コンサルでよく相談されることは他社ポイントや他社電子マネーとの提携交流の是非です。その多くは既に紹介をしました「他社ポイントへの流出」に関する内容でした。特に流通小売業や店舗型サービス業に多く見られた傾向です。
もう一つは「退蔵ポイント」に対する専門会社への疑問です。発行したポイントが使われないまま退蔵され、結果的に専門会社に退蔵益をもたらし加盟店の損に繋がるという心情です。
クレジットカード会社などカードを使ってもらうことが優先される業種では流出が当たり前で、ポイントによる上位顧客の維持や利用促進が優先事項と考えられていたため「流出」「退蔵」への不満以上に、自社の商品やサービスでは不足するポイント利用サービスを充実することが最優先で、その対策として他社との提携関係が強化されました。
提携先として必要不可欠であったのが航空会社のマイレージです。多くのポイント発行企業はマイレージとの提携により、自社ポイントのブランド力を維持しようとしていましたが、内心では取引条件が厳しく「しかたなく」とった本心を吐露する企業担当者もいました。
航空機を利用する顧客は常日頃から上位客で利用額も高く、マイレージが理由で他社に移行されたら大きな損失と考えた各社は、こぞってマイレージとの提携を選択したわけです。
ポイント交流は、
- ① A社ポイント⇒B社ポイント 一方通行型
- ② A社ポイント⇔B社ポイント 相互交流型
の2パターンに大きく分かれます。航空会社のマイレージも多くは一方通行型のスキームですが、一部ポイントや電子マネーなどでは相互交流の提携関係も見受けられます。
ただし提携先は航空会社だけではなく様々な企業が複雑に提携関係を結んでいるため、全体を俯瞰するようなポイント交流相関図を作成することは有益ですが、かなりの労力が必要です。
参考までに以前利用したポイント相関図を紹介します。(現在ではかなり変わっていますのであくまでイメージということで)
参考 カード戦略研究所
ポイント交流を通して自社の価値を高めるためには、各社がそれぞれポイント相関図を作成して、どことどのような提携関係を結ぶことが自社に有利なのか、十分に検討することが必要です。
ポイント交流に関しては一方で交流をビジネスとしてトライをしてきた歴史もあります。
CCCのTポイントを始めPONTAや楽天ポイントなど業界に群雄割拠する汎用ポイント、共通ポイントの今後の動向も気になりますが、次回は、その淵源となった航空会社のマイレージビジネスなど個別の事例の紹介を含め、ポイントビジネスに関して検証してみたいと思います。
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