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公開日: : 最終更新日:2018/05/21
ポイントカード・マーケティング論 そのⅠ
ポイントを仮想通貨に交換するサイトが動き始めています。単にポイント交換対象のメニューに仮想通貨が加わったと見るのは短絡で、ポイント戦略(性格)を大きく変える動きになるのでは見ています。
今後の動向に目が離せません。金融庁では「仮想通貨交換業等に関する研究会」が3月からスタートしました。
今後、仮想通貨を巡る動きは、産業育成と規制そのバランスを含め、様々な角度からの検討が求められます。
ポイントとの関係も今後検討課題になる可能性もあります。この件は改めて述べたいと思います。
百花繚乱、「ポイント」という価値が日本市場を繚乱しています。財布の中に何らかのポイントサービスが付帯されたカードを持っていない人は稀少ではないかと思います。
ポイントカードはもちろんのこと、クレジットカード、デビットカード、電子マネーカード、スマートフォンなど、ポイントが様々な業種やサービスで活用されています。
野村総研の発表では、ポイント発行総額は1兆円を超えたとも言われ、ポイントの経済社会に与える影響を研究する論文まで見かけるようになりました。
第二回目のコラムで「私がカードというものを直接テーマにするようになったのは、1980年(昭和55年)ごろで、当初は紙シールを媒体としていたスタンプサービスを何とかカード化できないかというのが始まりでした。」と紹介をしました。
スタンプサービスは、そのころ商店街などが発行するサービスシールと全国に加盟店を持つトレーディングスタンプが主流でした。
1970年代(昭和51年~)にトレーディングスタンプとの出会いがあり、アメリカ生まれのスタンプサービスが、商店街などで発行されるサービスシールとは全く異なり、戦略性を持つ販促ツールであることを知りました、
そのような背景もあり、今回はポイントカードに当初から係わって来た一人として、改めてポイントカード・プログラムについて、基本論から戦術・戦略論まで私の考えを述べていきたいと思います。
写真の「よく効く・ポイントカードの処方箋」は、2002年5月から2004年2月にかけて、私がカード専門誌に連載をした内容を再編集して発行したものです。(ペンネームがこの時は浅見俊介でした)
ポイントカードの基本から導入、販売促進(プロモーション)、マーケティング戦略、個別テーマにわたる実践的内容を主眼としたものです。
その前にはSC(ショッピングセンター)や商店街組合の振興策として、ポイントカードの導入マニュアルを詳説した「共同型多機能カード 導入・活用の手引」(共著・共編)を、当時の(財)流通システム開発センターの常務理事浅野恭右氏(故人)の薦めもあり執筆・発行しました。(1994年発行)
カードビジネス全般のコンサルティングの経験を含め新規ポイント事業会社立ち上げに関するコンサルティング、またCVSにおける会員制・ポイントサービス構築に関するコンサルティング、ポイント市場全般にわたる市場調査、地域商業(SC、商店街等)におけるポイントカード導入のコンサルティングなど長年に亘り多数の実務経験をしました。
その数々の実践的経験を元に「ポイントカード・ポイントプログラム・ポイント戦略」の本質に迫れればと思います。
ポイントカード・ポイントプログラムを理解するために<1>
今日のポイントカードの源流を私はいつも2つの側面から見ています。一つ目は、米国で100年の歴史を刻んでいたトレーディングスタンプの流れです。
もう一つは、FFP(フリーククエント・フライヤーズ・プログラム)に代表されるマイレージプログラム(カスタマー・ロイヤルティ・プログラム)です。
同様のプログラムをホテル業界ではFGP(フリークエント・ゲスト・プログラム)、小売業界ではFUP(フリークエント・ユーザーズ・プログラム)と呼んでいます。
この2つのプログラムが融合して展開している戦術・戦略が日本におけるポイントカード・ポイントプログラムと私は理解しています。
スタンプサービスは大店舗法の規制により大型店での発行は長年認められていませんでしたが、規制緩和により大手流通業にも門戸が解放されました。
その突破口を切り開いたのが、1988年にヨドバシカメラが発行した「ゴールドポイントカード」です。
ヨドバシカメラと言えば家電ディスカウント商法で首都圏を中心に破竹の勢いでした。ただでさえ薄利多売の激安商法で台頭してきた同社が、5%、10%のポイントを発行したわけです。
当初は、その意味も受け止めることが出来ず、気にも留めない企業が同業他社の一部を除いて大半でした。
しかし同社のポイントカード発行は、単なる「おまけ」ではなく、理論整然とした戦略性がありました。
当時、同社のK常務と直接会いそれらの疑問をぶつけてみました。
「ディスカウント商法を定着させるためには、安定した仕入れルート<方法>の確立が急務であり、そのために解決しなくてはならないのが商品調達の情報化であった。
旧来のバッタ商法では店舗拡大、品揃えにも限界があり、近代的なディスカウントショップとは言えない。
ヨドバシカメラがまず取り組んだのが、社内体制の情報化、特に商品仕入れから管理、店頭販売までの情報化であった。」(同社K常務)
「第一段階の商品管理からPOS端末までの情報化に目途が付き、次に取り掛かったのが、店舗(POS端末)と消費者をつなぐ情報化であった。
従来店舗と消費者をつなぐ手段は、テレビ、新聞(チラシを含め)などマス媒体を使っていたが、コストばかり嵩む一方で、来店客の履歴や要望を収集できず、顧客の購買履歴分析や効果的商品調達には生かすことはできなかった。
そこでポイントカードに白羽の矢が立ち、その後検討を加え導入に至った。」
「導入当初に、ポイントカード履歴情報から利用上位40万人にDMを送ったところ、何と16万人がそのDMを見て来店した結果をこの目で見て、ポイントカードの可能性を実感した。」(同K常務)
今から見れば、ごく普通の認識・評価と言えますが、ポイントカードが単なる販促サービスではなく、様々な可能性を秘めたシステム、プログラムであることを最初に実証した例と言えます。
ポイントカード・ポイントプログラムを理解するために<2>
何のためにポイントカードを発行しているのか。その目的によりポイントカード発行の枠組みや運用スキームは違ってきます。
しかし、現状のポイントカード・プログラムの発行概要を見ても、必ずしも発行目的が明確に伝わらないものや理解し難い事例もあります。
何故そのようなことが言えるのか、まずは、現在発行されているポイントカード・プログラムの姿を簡単に分類して、理解を深めるための材料としたいと思います。
現在発行されているポイントカード・プログラムを大まかに分類すると、ハウス型ポイントカード、提携型ポイントカード、汎用型ポイントカードの3種類のモデルになります。
さらに提携型ポイントカードは、提携関係より運用、役割、負担、システムなども変わってきます。
下図は、現行のポイントカード発行パターンを分類したものです。
カード戦略研究所作成
ポイントカードを導入しようとする企業や組合が、どのような発行・運営形態で事業展開すべきか、発行目的と期待する効果、現状分析(SWAT分析等)により判断されていると思われますが、そのようなプロセスを省略して競合相手が導入しているので、仕方なく発行しているとの本音を漏らす経営幹部もいます。
発行・運営パターンと導入目的・現状分析結果のマッチング・乖離、そうした視点での理解も求められます。
ポイントカード・ポイントプログラムを理解するために<3>
ポイントサービスの第一義的な効果とは?その答えを私は「ポイントを出すこと自体がポイントの効果」と言っています。
何故なら、ポイントは売上が計上されて初めて出ていくもので、勝手に一人歩きするものではありません。
ポイントがどんどん発行されるということは、イコール売上がどんどん上がったことを裏付けています。
売上が上がるということは、客数が増えるか、客単価が上がったのか、あるいは購買頻度が増えたことを意味するわけで、ポイントカード導入の第一義的目的を達成したことになります。
一方で顧客情報を収集するためにポイントカードを導入したので、売上は二の次だと豪語する経営者もいないとは言いませんが、情報を集めてどうするのか突き詰めると、やはり売上に直結するわけで、客数、客単価、購買頻度が何ら変化しなければ、導入効果を疑うことになるでしょう。
しかしながら、この「ポイントを出すこと自体がポイントの効果」に関して理解を示す経営幹部は多くありません。
あるCVS担当の商社幹部(後に大手商社の社長に就任)に、説明した時に「いや、発行したポイントが他社に使われてしまうのでは元も子もない。」と、導入するにしても自社ポイントだとの判断を変えませんでした。
その時、私はコンサルタントとして「ポイントは強者の武器、御社の規模影響力であれば、流出より流入になる可能性が高い。
そのためにも相互交換や専門会社の加盟店になることを、最初から排除すべきではない。」と説得をしましたが、「ポイント原資の流出」というトラウマを「発行する自体が効果、貯まったポイントをどう使うのかは利用者の問題」という考えに変更してはもらえませんでした。
蛇足ですが、そのCVSも現在では専門会社のポイントを導入しています。どのような経緯で専門会社の汎用ポイント導入に至ったのか、既に離れて久しいため詳細は分かりませんが、歴史を感じています。
さらにポイントは、漫然と発行しているだけでは効果を発揮できません。ポイントプログラムと表現するように、プログラム性が重要になります。
例えば100円で1ポイント(1円相当)を発行するポイントカードの利用者にとって、いつ行っても100円で1ポイントでは、なかなかポイントは貯まらず、しまいには諦めてしまう、といつたことも十分に予測されます。
一定の期間で、一定の量のポイントが利用者の手元に貯まらなければ、ポイントの販促性は半減し、効果も期待できません。
そのためにポイントが多く貯まるような仕掛けが必要となります。その仕掛けをポイントプロモーションと私は呼んでいます。
カード戦略研究所作成
上図は、発行後のポイントプロモーション実施と消費者心理の関係を簡単に示したものですが、詳細は次回以降で説明できればと思います。
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