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公開日: : 最終更新日:2018/02/22
ブランドデビットカードの景色(そのⅡ)
この原稿を執筆中に仮想通貨の「NEM」580億円が不正に流出しことが大々的にニュースに流れました。取引所大手のコインチェックから流出したもので、改めて仮想通貨に大きな注目が寄せられています。
インターネット画像から
仮想通貨ビットコインに代表されるICO(Initial Coin Offering)には、
①資金調達を目的にしたICO
②通貨として普及し価値を持つことを目的にしたICO
③金儲けのモデルを作ることを目的にしたICO
の3種類があると言われています。
このICOに関しては、メリットとデメリットがあり、特にメリットに魅力を持ち、ICOに投資した結果、多大な損失、犯罪(詐欺)被害に遭うなど社会問題化し、米国、シンガポール、中国、韓国など海外では規制される傾向にあります。
日本でも改正資金決済法(以前当コラムで紹介)で仮想通貨の規制が法制化されましたが、原則「登録制」となっているため、参入し易い環境となっています。中には「登録制」をお墨付きと勘違いして、気軽に仮想通貨を購入する人も見かけます。
確かに、10倍、100倍と購入時の価値が急騰する仮想通貨もあり、仮想通貨バブルが生まれているとの指摘もあります。
バブルとなれば価値が10分の一、100分の一に下落するリスクも抱えていることも忘れてはいけません。
ビットコインの購入者のほとんどは日本人だとも言われ、自己責任によるリスク管理が成熟していない日本社会において、フィルターバブルの影響も重なり、「TheDAO事件」(仮想通貨の流出)の再来が、「NEM事件」により現実のものになったことを私たちは熟慮する必要があると改めて思いました。
ただこの事象だけで仮想通貨を否定することは短絡で、1500種類ものの仮想通貨が出現、市場も60兆円を超えた状況を考えると、問題の発生・問題の克服を通して進化していくものだとの視点も必要だと思われます。
インターネット画像から
仮想通貨に関しては、今後も折に触れ述べていきたいと思います。
何故、日本ではカード決済比率が欧米並みにならないの
カード専門誌に携わっていた時に、海外の国際ブランドの幹部や日本のクレジットカード会社のトップから「日本では、まだまだクレジットカードの伸びる余地がある。」と常々聞かされて来ました。
その後日本ではETCや公共料金、ECなど幅広い分野でのクレジットカード決済が普及し堅調に成長を遂げてきました。しかし、現在に至っても欧米諸国(特に米国)と比較して、その肩に並んだとは言えません。
今回のテーマである「ブランドデビットカード」とは離れているように思われますが、実際は密接な関係があり、課題も共有しています。
そこで、米国と日本でのクレジットカードの普及について、私なりの見方を紹介しながら、「ブランドデビットカード」の日本での景色を見ていきたいと思います。
米国と日本の大きな違い<クレジットスコアの存在>
米国のクレジットカードは、個人の信用力を計る(バロメータ)クレジットスコアにより発行されています。
クレジットスコアは、クレジットカードの発行だけでなく、金融さらに生活全般に影響を持つ診断システムです。
そこで評価によりクレジットカードが発行されるわけですから、クレジットカードを持つこと自体が、自身の信用力を裏付けステイタスとなり、多くの人々の憧れになります。
日本では、個人情報を管理するセンターはありますが、米国のような影響力はありません。
また大学出たてのサラリーマン(何ら社会人としての履歴もない)に、30万円、50万円という高額なショッピング枠(与信)を与え、かつキャッシング枠までも与えています。
こうなるとステイタスというより余程マイナスなことがない限り、誰でも持てるカードであり、クレジットカードの認識、評価は米国とは全く違う経過を辿ることになります。
大衆カード・庶民カードの側面が強いということは、必然的に発行枚数は多い割に利用単価は低くなり、全体的に取扱高を下げる結果を齎します。米国と日本のクレジットカードの取扱額の違いが生じる要因の一つと私は考えています。
米国と日本の大きな違い<ビジネスモデルと国民性>
次に着目したいのがビジネスモデルの違いと国民性による影響です。日本では過去の法規制等もあり、クレジットカードはマンスリークリア(1回払い)がベースとなり進展してきました。
今日でも1回払いは全体の約90%前後を占めており、その傾向は変わっていません。
逆に米国では、前回指摘した通りリボ払いが一般的です。リボとなれば毎月の収入の枠内でクレジットカードを利用する以上(クレジットスコアの信用度にお応じて)の購買意欲が働き利用額は膨らみ、取扱総額を上昇させます。
一方、カード会社はリボ払いによる収益がベースとなることで、加盟店手数料を低めに抑えることができ、加盟店にとってもクレジットカード利用の受入れを促進するモチベーションが働くことになります。
しかしマンスリークリアが一般的な日本では、加盟店手数料に収益のベースを置かなくてはならないため、利益率の低い業種や中小の商店では、加盟店手数料に対する拒否反応もあり、米国と比較して加盟店のモチベーションが高いとは言えません。
それに加えて、日本では四季など折々の節目に即した日常生活が営まれ、生計も「そろばん」に代表されるように、節目に合わせた「出と入り」を自然に頭に置いた「堅実」な社会が形成されてきました。
そのために所得に合わせた堅実な生活の範囲でクレジットカードも利用される傾向が強く、必然的に翌月支払いで生計が見やすいマンスリークリアの利用が一般的になっていると思われます。
このように考えると、米国に比較して日本のクレジットカード取扱高が低いのは、ビジネス構造、生活文化の違いであり、「遅れている」「現金至上主義」という評価は、必ずしも正確ではないかも知れません。
もし、米国並みにクレジットカードの取扱高を伸ばしたいのなら、「マンスリークリア」から「リボ払い」という根本的なビジネスモデルの転換、「社会合意的な堅実性社会」から「自己責任型のリスク管理社会」という価値観の転換に向けたアプローチが必要かも知れません。
このような日本でのクレジットカード事情を考慮しつつ、ブランドデビットカードの普及に関して複眼的な角度でみてみたいと思います。
ブランドデビットカードの理解と可能性
最近のJ-デビットカードとブランドデビットカードの利用動向をみると、2016年(平成28年度)に決済金額が逆転していることが分かります。
日本のクレジット統計(日本クレジット協会)より
ただし決済額の絶対値が低いため、逆転したといってもカード決済全体に及ぼす影響は無いに等しく波紋にも至っていません。
そうは言ってもこの事象はデビットカードの歴史からみれば、減少傾向のデビットカードに歯止めをかけ、増加へと転じた年になったことは間違いありません。
現在ブランドデビットカードは、VISAブランドとJCBブランドが主流を占め、発行形態はキャッシュカードにデビット機能を付与しているものと、デビットサービス専用のカードがあります。
またVISAブランドを発行する銀行は18行、JCBブランドでは23行となっていますが、メガバンクから地方銀行、流通系・ネット系銀行まで広がってきています。
下図は、その一部を紹介したものです。
J-デビットとの大きな違いは、クレジットカード加盟店インフラをそのまま使い、加盟店手数料等はクレジットカードに準じ、キャッシュバックやポイントサービスが付与されていることです。
また各カード発行事業者により様々な付帯サービス機能が付与されており、各事業者の特徴と工夫が見て取れます。
ブランドデビットカードの発行一例
カード種類名称 | 摘要 | |
楽天銀行 | VISAデビット | 年会費1029円、ポイント0.2%還元 |
ゴールドデビット | 年会費3086円 ポイント0.5%還元 | |
JCBデビット | 年会費無料 ポイント還元1% | |
三菱UFJ銀行 | VISAデビット | 年会費1080円初年度無料、 利用額10万・23才以下無料 |
スルガ銀行 | VISAデビット | 年会費無料 ポイント還元0.2% (TP0.5%)キャッシュバック |
りそな銀行 | VISAデビット | 年会費540円初年度無料 ポイント還元0.5% |
埼玉りそな銀行 | 同上 | 同上 |
あおぞら銀行 | キャッシュカードプラスvisa | 年会費無料 ポイント還元0.25% |
千葉銀行 | スーパーカードJCB | 年会費1350円初年度無料他 ポイント還元0.1~0.4% |
大垣共立銀行 | デビットJCB | 年会費1080円ポイント還元0.1~0.4% |
北洋銀行 | JCBデビット | 年会費540円初年度無料 ポイント還元0.1~0.4% |
ジャパンネット銀行 | VISAデビット | 年会費無料キャッシュバック ポイント還元モール利用1% |
近畿大阪銀行 | VISAデビット | 年会費540円初年度無料等 ポイント還元0.5% |
イオン銀行 | イオンデビットカード | 年会費無料ポイント還元0.5% |
住信SBIネット銀行 | VISAデビット | 年会費無料キャッシュバック ポイント還元0.6% |
三井住友銀行 | VISAデビット | 年会費無料SMBC条件キャッシュバック |
ソニー銀行 | VISAWALLET | 年会費無料キャッシュバック |
カード戦略研研究所作成
日銀レポート「最近のデビットカードの動向」より
こうしたブランドデビットカードの取り組みが、欧米諸国並みの取り扱いにシェアを拡大することができるのか、上記の日銀レポートでは、日本のデビットカード利用が限定的な理由として、
①日本ではクレジットカードの発行審査が海外ほど厳しくなく、クレジットを保有している人が多いこと(すなわち、「クレジットカードが持てないので止む無くデビットカードを持っている」といった人が少ないこと)
②クレジットカードとデビットカードの両方を持つ人が、敢えてデビットカードの方を使うインセンティブが生じにくいこと(すなわち、デビットカードは即時引き落としだがクレジットカードは時間を置いての引き落としとなるため、通常は後者が選好されやすいとみられる)
③少額決済の分野では、引き続き現金が広範に使われているほか、電子マネーなども広く使われ、そのシェアを崩すのは容易ではないこと。を挙げています。
カード決済ビジネスの構造自体に内在する要因と少額決済事情が、デビットカード普及を阻止しているとレポートでは指摘している訳ですが、本稿でこれまで述べてきた認識は一致しています。
次回は、こうした理解を通して、ブランドデビットに特化して普及の可能性を探ってみたいと思います。
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