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政府 vs クレジットカード業界
まえがき
これまで政府は、クレジットカード業界(以下、業界と称します)に対してどのようなスタンスを取ってきたか、に焦点を当てて考えてみることにします。
この業界は純国産ではありません。外来種の一つです。政府は、これまで業界をまったく問題にしなかった、換言すると完全に無視してきた、監視はするが手出し(助成)はしなかった、と私は考えてきます。
業界はロビー活動を展開する有力者を後ろ盾に持っていませんでした。かっては銀行法の壁に閉ざされて業界の誕生すらあまり表沙汰にはなりませんでした。
生みの親である銀行からもあまり構ってもらえませんでした。しかしこの鬼っ子はかかる逆境においてもすくすくと成長し、今や90兆円産業と称されるまで大きくなりました。このような政府のスタンスは2014年末を堺として変わったと私は思います。
1. アベノミクス日本再興戦略改定2014の戦略
2014年12月26日、政府(注)は、「日本再興戦略改定2014」を発表し、「2020年東京オリンピックの開催等を踏まえ、キャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性向上を図る」戦略を打ち出しました。以下、少し詳しく考えて見ましょう。
(注)ここで政府と言うのは次に示す政府関係省庁です。内閣官房。金融庁、消費者庁、経済産業省、国土交通省、観光庁の6つです。
2. キャッシュレスに向けた戦略とは
上述した政府の戦略は次に示すように11のポイントを謳っています。私に言わせれば、(5)、(10)、(11)を除き、なにをいまさらという感じがします。
(1) 海外発行のクレジットカード等での現金引出が可能なATMの普及
(2) クレジットカード等の使用可能店舗での表示促進
(3) 地方商店街や観光地等でのクレジットカード等の決済端末の導入促進
(4) 海外発行のクレジットカード等を交通目的でも利用できる環境の整備
(5) 百貨店における面前決済の一般化
(6) クレジットカードシステムの乱用防止
(7) クレジットカード番号や個人情報管理等のセキュリティ対策強化
(8) クレジットカード及びクレジットカード決済端末のIC化
(9) 公的納付金の電子納付の一層な普及
(10) キャッシュレス決済にかかわる消費者教育の充実
(11) 官公庁による経費支出を現金からクレジットカードへの切替促進
3. ライフアシストポイントとは
セブン&アイ、イオン、イオンフィナンシャル、クレディセゾン等の大手流通業界が行っているロビー活動の呼び名です。
「クレジットカード年間利用額の50万円を超える売上高に関して5%のポイントを付与し、年間10万円を限度として国がキャッシュバックする」ことを内容としています。具体的な実施方法は未詳です。
例えば、あるカード会員が年間で80万円の買物が行ったとします。
80万円―50万円=30万円
この差額30万円に還元率5%を乗じます。
30万円X0.05=1万5000円
この金額が消費者にバックされるわけです。
この施策は、そもそも韓国政府が実施しているカード利用奨励策です。これを日本でも真似しようとしたものです。
大手流通業界がクレジットカードの普及率を上げることを狙ったものですが、中小規模の商店からの不信感が強く、このロビー活動が国民の同意を得ることができるのかどうかはわかりません。
4. 韓国政府のクレジットカード利用奨励策
1997年の東南アジア通貨危機で破綻した韓国はIMFの管理下に置かれました。当時、同国政府は税収の大幅減少を補うため、2000年に「クレジットカード利用促進政策」を実施、小規模店舗の脱税を押さえてアングラマネーの徴収を図りました。
このカード利用促進策は次の内容を含んでいました。この結果、韓国のカード利用率は世界一となりました。
- クレジットカードの年間利用額の20%の所得控除
- クレジットカード1000円以上の利用で宝くじ購入権利を付与
- 年商240万円以上の商店に対しクレジットカード取り扱いを義務付け
5. クレジットカード業界の経団連と全銀協との結びつき
経団連
CIC、三菱UFJニコス、アイフル(ライフ、ビジネクストを子会社としてもっています)の3社ガが会員となっています。
全銀協
正会員120行、銀行持株会社3、準会員69行、特別会員59行、特例会員1行がメンバーですが、クレジットカード会社はメンバーではありません。強いて言うなら、3大メガバンクやその他の大手銀行の傘下で間接的なメンバーとして存在しているだけと言えましょう。
6. クレジットカード業界による政府への貢献
業界は次のようにいくつかの分野で政府に尽くしてきています。
- ふるさと納税制度
- 一部の税金や公共料金の徴収
- クレジットカード会社のポイントをオリンピックに寄付する政府の構想
- 2017年4月に消費税率が10%に引き上げられます。財務省は、貧困層対策として食品に限り2%を還元する「日本型軽減税率制度」においてクレジットカード番号とマイナンバー制度を利用する構想を検討中。
7. クレジットカード業界のポイント制度とは
ポイント制度は、企業の販売利益の一部を顧客に還元する制度です。家電量販店、携帯電話、航空会社、ネット通販の楽天市場やアマゾン、一般の商店街やショッピングモールと最近急速に広がってきました。
この制度の目的をまとめる次のようになります。
- 客層の囲い込み
- 客のお金で値引きする仕組み
- 客の、客による、客のための値引き
- お店はぜったい損をしない仕組み
- 会計学上、客が見捨てるポイントを益金に計上
政府(最近創設されたスポーツ庁)はクレジットカード業界のポイント制度に目をつけました。ポイントを貯めたカード会員に対し、2020年の東京オリンピックへの寄付を呼びかけます。
その手段として、次のステップにより寄付金がオリンピック委員会に流れる構想がでてきました。人のふんどしで相撲をとる構想と悪口を言う人もあります。
- カード会員が一定額の寄付を決意する
- 会員は寄付する旨をクレジットカード会社に申し出る
- カード会社は申し出に応じ1ポイント1円の割合でポイントを現金化し、これをオリンピック委員会に払い込む
- なお、ポイントによる寄付を行ったカード会員に対する褒章(例えば、一定額以上の寄付を行った者に対し入場券の優先的買入れを認めるなど)については、まだなにも発表されていません。
8. マイナンバー制度とクレジットカード番号
2016年1月から、いよいよ国民総背番号制と称されるマイナンバー制度が動き出します。ここでマイナンバー制度についてざっとおさらいをしておきましょう。
- マイナンバー制度の根拠法は、2015年9月3日に成立した行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律です。住民票を持つすべての国民に12桁の番号を付与することを定めた法律です。
- 2015年10月にこの番号の通知カードの郵送が始ります。総務省はカードの交付を円滑に進めるため、推進本部を設置しました。
- 2016年1月にマイナンバーの利用が始ります。社会保障、税、災害対策の分野における個人情報の管理が始り、マイナンバーが身分証明書として使えるようになります。
- 2017年1月にマイナンバー専用サイトの運用が開始されます。マイナンバーは、児童手当、生活保護申請の分野で使えるようになります。
- 2018年1月に本人の同意を得た上で、マイナンバーが銀行口座と接続されます。
以上がマイナンバー制度の概要です。この制度に対しては、次のような懸念や反対論が囁かれています。
- マイナンバーを悪用する特殊詐欺が増える惧れがある。
- マイナンバーは「だまし」の口実にされ易い。
- マイナンバー制度を通じ個人情報が漏れる危険が大きい。
- マイナンバーを管理する政府の大容量コンピュータのセキュリティは完全か。
日本年金機構の杜撰なセキュリティ取組体制を見ると不安が募る。 - 政府の狙いがどこにあるのか不明である。法律を次々に改正し、マイナンバーの網を広げていくことができる。最終的には、政府は、国民すべての所得・資産をいずれ丸裸にしていくのを狙っているのではないでしょうか。
- サイバー攻撃の備えの甘さが気になる。
- 情報管理に携わる末端の政府職員のセキュリティの智識と責任感が不安。末端に行けばいくほど、情報取扱のセキュリティ意識が薄れてくる。
- マイナンバー制度の周知不足が懸念される。国民一人ひとりにマイナンバー制度を充分納得させる期間と政府の努力がもっと必要ではないか。
9. むすび
以上を読みなして私が得た印象を最後に一言。政府のクレジットカード業界に対するスタンスには、ちょっと下品な言い回しですが「やらずぶったくり」、「われ感せず鴛」、「都合のよいときだけ利用し、その後は使い捨て」でした。
しかし、このような環境の下で業界は力強く生き抜き、今日の地位を築き上げてきました。2020年の東京オリンピックを機に、私が得た印象が変わるとよいのですが・・・。
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