公開日: : 最終更新日:2015/06/03
クレジットカード業界の七不思議
まえがき
「越後の七不思議」、落語の「本所の七不思議」については皆さんよくご存知のここと思います。「七不思議」とは、ある場所、ある所で起こる不思議な現象を指します。
私は長い間クレジットカード業界にかかわり、その内部事情を見てきました。その間にいろいろな出来事や事象に出くわしました。
現役を離れてもいまだに首をひねることが幾つか思い出されます。今回は、真面目さ半分、面白さ半分でこれらの自称を「七不思議」と題しておまとめておきましょう。
1. ガラパゴス・シンドローム
最近「ガラパゴス」という言葉がよく目に付きます。「ガラパゴス」は、エクアドル国が領有する一群の大小の島と岩礁の名前です。
エクアドル本土から太平洋を西へ900km進んだところに点在する離れ小島です。かっては、金を積み込んで航海するスペイン船を襲う海賊の隠れがになっていたこともありました。
この島に生息する生物は、何万年の間大陸との接触がないまま島内で繁殖し特異な生態系を備えており、1978年世界遺産(自然遺産)に登録されています。
このことから、諸外国から隔絶され世界標準とは異なる形で進化することをガラパゴス化している、あるいはガラパゴス化現象だ、または特異の病状としてガラパゴスシンドロームと呼ばれています。
日本のカード業界は、ある時期、世界からこのガラパゴス現象の好例として目されたことがあります。いくつか例を挙げましょう。
- 信用照会端末機の回線(CAFISとCATNET)をめぐるIBM(国際規格派)と電電公社(国内規格派)の熾烈な争い(電電公社が勝ち残る)。
- 加盟店開放問題
- 磁気ストライプの表貼りと裏張り、両面張り
- グローバルATMへの配慮の欠如
- ガラケイ(ガラパゴス化した携帯電話)、など
- おサイフケータイ Felicaの搭載
日本の技術レベルは世界で最高と言われています。それなのになぜこのようなガラパゴス現象が起きるのでしょうか。
外国語が苦手、現地人との付き合い下手、現地環境に馴染めないという、島国日本独特の国民性によるものでしょうか。
日本の優秀な技術者が、世界の流れ、世界で標準的に採用されている誰にでも適合する規格に目を向けないで、国内での激しい競争の下、国内のニーズのみに目を向けたコストを無視した独自の国内規格を作り上げてしまうからでしょうか。はっきり分かりません。
2.カード会員のガードの甘さ
オレオレ詐欺、振込め詐欺、特殊詐欺、名前は変わっても中身は変わりません。主として1人暮らしの老人から大金をむしりとる悪質な詐欺犯罪です。
手口が巧妙化し、グローバル化しています。ポイントは2ッあります。
その1、コロリと騙される被害者、
その2、騙された老人はお金持ち、
の2点です。警視庁もあまりの悪辣さに本腰を入れて取締を強化し始めています。NHKも毎晩7時のニュースの前に「ストップ詐欺被害、私は騙されない」と題うって詐欺手口のキーワードを噛んで含めるように放送しています。しかし、被害者は後を絶ちません。なぜでしょう。
クレジットカード犯罪に対するカード会員のガードの甘さも、振り込め詐欺の被害者の甘さと似ています。
カードは掏られる、PINを簡単に他人に教えてしまう、PINを読取られる、ネットでIDをハッキングされる、クレジット・ヒストリーに余り関心を払わない。
一口でいえば、日本人はカードのガードが甘いのです。私は米国における生活経験やセキュリティオフィサーとしての体験を通じ、日本人とアメリカの人とのクレジットカードに対するガードの格差をよく見てきました。
日本人は、すぐ他人を信じる、生来のお人よしです。なぜでしょうか。
3.クレジットカード業界の壁
銀行系、信販系、流通系、交通系、小売業系、メーカー系、航空系、消費者金融系、ノン・バンク系など細かく分類されたクレジットカード会社を眺めて明らかなように、クレジットカード業界は業態別の高い壁に仕切られています。
個人信用情報機関のあり方、初期の加盟店開放問題いずれも、この業態別排他性の問題から生じたものです。この高い壁は、なにもクレジットカード業界に限ったものではありません。
調べてみると、大手企業と中小企業との間、建設業、IT起業、製薬業、学会などいたるところにこの壁が存在しています。政治性あるいは規模の大きさは別としても、万里の長城やベルリンの壁が思い出されます。
経済社会で市場のシェアを争う企業がライバル社を敵視し、自社の顧客を囲い込み、業態内で蓄積された顧客情報を相手に渡すまいとする気持ちはよく理解できます。
しかし、経済のグローバル化が進む現状において、小さな島国においてお互いが壁を作りせめぎ合う姿は一体いつまで続くのでしょうか。謎の一つです。
4.JIS/ISOへの関心の低さ
JIS(=Japan Industry Standard)は日本の国家規格のことです。自動車や電化製品から始まって広い範囲にわたり、文字コード、プログラムコードなど情報処理も含み、産業カテゴリーごとにAからXまで分類されています。
クレジットカードの磁気ストライプは情報処理関連部門のXで、JIS-1型とJIS-2型,(国際規格の ISOでは7811番)で登録されています。
登録手続は、関係者が所定の手続にしたがって関係省庁に登録申請を行い、一定の審査を受けて正式に登録されることになります。
関係者が能動的に動くことが求められています(ノーベル賞の場合は、ノーベル委員会が候補者を選定する、すなはち、候補者は受動的な立場にある点と正反対です)。
登録全般の仕事は日本規格協会が行います。少し古い話ですが、経済産業省が2007年1月に三菱総合研究所に委託して、日本企業・日本人のJISに対する関心度を調査したことがあります。
その調査報告「JISマークに関する一般消費者のアンケートの結果について」によりますと、「関心度は低い」と報告されました。
日本規格協会の調べによると、クレジットカード関連のJIS登録は1998年に僅かに2件にとどまったそうです。
その後、ICカードの普及により登録件数は2000年代に入ってから少し伸びだしたそうです。なぜ、業界のJISに対する関心度が低いのか。
クレジットカードが登場した1960年ごろは、日本人のJISへの関心度が極めて希薄でした。そこへ米国生まれのクレジットカードが持ち込まれたのでJISへの配慮はほとんどなかった、という説がありますが、ピンときません。
5.偽造カードをめぐる銀行とカード会社のスタンス
偽造クレジットカードによる被害の補償は、なぜ法制化されないのか。2000年前後の偽造クレジットカード認知件数と偽造キャッシュカード認知件数とを較べると、下表のように前者が後者を上回っています。
2003年ごろからスキミングの手口を使ってカードを偽造する事件が社会問題化してきました。銀行はいち早くこれに対応し、2006年2月10日、「偽造カード等及び盗難カード等を用いて用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律(預貯金者保護法)」が施行されました。全銀協を中心とする銀行側のロビー活動が効を奏したわけです。
クレジットカード業界には銀行側のような素早い動きは見当たりません。その理由として次の点が挙げられています。
- クレジットカードの場合は、直ちに預金残高が消滅するわけではなく、後日請求があったとき初めて被害に気付く。被害のショック度が小さい。
- 被害は、チャージバック制度である程度救われる。
- 被害は、保険でカバーされている場合もある。
- カード会社の長年にわたる偽造カード対策が一種の免罪符となっている。
- クレジットカード会社は業態別の縄張り争いばかり繰り返すだけで、銀行業界における全銀協のようなしっかりしたロビー活動機関を持っていない。
いろいろな理由がありますが、なるほど、と100%頷ける理由はありません。
6.クレジットカードを規制する法律
わが国には現在、クレジットカードを単独で規制する法律はありません。前述しましたとおり、主として3つの法律、すなわち、決済についてはは割賦販売法、金利については出資法、貸出しについては貸金業法が中心となり、その他必要ある場合、ケースバイケースでいろいろな法律が適用されています(クレジットカードをめぐる法律の項を読み直してください)。
立法手続からみると、政府立法、議員立法、特別措置法制定など、いろいろな方法があるようですが、緊急事態に対応する特別措置法はカードの単独規正法の制定手続としては不適当でしょう。
議員立法が望ましいのでしょうが、クレジットカードに熱心な族議員は見当たりません。となると、政府立法しか残っていませんが、歴代の政府においてクレジットカードに強い関心を払う政府はありません。
日本銀行もクレジットカードにはあまり関心を持っていないようです(最近、ようやくクレジットカードを担当する班が設けられたようです。
「カード社会の到来」などとメディアが囃し立てる割合にしては、政府、議会、財界とも単一法の制定には無関心のようです。なぜでしょうか、はっきりした理由を見つけることはできません。
7. 外国人犯罪対応の甘さ
蛇頭、香港三合会、香港爆窃段、韓国すり、マレーシア産の偽造カードなどの名前を覚えている方も多いと思われます。
わが国は、かって、外国人犯罪者から、日本は俺たちの天国だ、日本人はお人よし金庫(ATM)が大通りに放置されている、取締法は穴だらけ、刑罰は軽い、日本のポリスは優しい、決してピストルを撃たない、留置場はホテル並みで待遇がいい、強制送還されてもまたすぐ舞い戻れる、などと言われ、密入国者が大挙して押し寄せてきた時代がありました。今では、彼らの言い分はほとんど夢と化したようですが、それでも、彼らの跳躍は後を絶ちません。
中国、韓国、マレーシア、コロンビア、ロシアなどからの”招かれざる客” (persona non grata) によるカード関連犯罪に私ども歯軋りした記憶があります。
ご参考までに、私が香港警察当局から入手した「香港マフィア」の分布図を紹介しておきます。なぜ、日本は外国人犯罪者から舐められるれるのでしょうか。
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