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消費者金融とメガバンク
まえがき
世の中には、これから社会人として第一歩を踏み出そうとする若い人、主婦、中小企業の経営者、あるいは多重債務に苦しんでいる人などを、借金地獄に引きずりこんで一儲けしようと企んでいる人が沢山います。
巧みな広告、甘言の裏には怖い罠が隠されています。以下の記事を前述した「庶民金融と金貸しの生い立ち」という項とともに読んでください。
1. サラ金の誕生
1990年代初めのバブル経済崩壊後、経済的に苦しむ家庭が急増しました。1992年に施行された暴対法の締め付けや不況により、暴力団員がサイドビジネスとして借金取立に参入してきました。
1993年に自動契約機が導入されました。1995年にそれまで深夜帯のみに限定されていた借金勧誘のテレビコマーシャルがゴールデンタイムに放映することが出来るようななりました。携帯電話が普及してきました。
サラ金はこのような土壌から生まれてきたと言われています。。
2. サラ金の呼び方
次のようにいくつかの呼び方がありますが、いずれも法律用語ではありません。メディアの呼び方です。、
- 団地金融
- サラリーマン金融(サラ金)
- 街金(マチキン)
- 消費者金融
- ローンシャーク(loan shark=ローン鮫)
3. サラ金大手6社
俗称サラ金大手6社を誕生年の順にリストアップすると次のとおりとなります。
- 1959年 三洋信販(当初:三洋商事)
- 1960年 アコム
- 1961年 プロミス
- 1964年 レイク
- 1966年 武富士
- 1967年 アイフル(当初:松原産業)
4. サラ金地獄
まず、借金の期限が来ても返さないとどうなるか、を考えてみましょう。
- 最初の数日間
自宅に電話がかかってくる
職場に電話がかかってくる
請求書が届く - 延滞1~2週間
電話が執拗になる
この段階からやくざが顔を出してくることがあります
第1次身辺調査が始る - 延滞2週間~1ヶ月
親族に連絡がいく
取立がくる - その後 延滞1ヶ月~
親族に請求がいく
借主のプライバシー調査が始る
取立が執拗になる
滞納が3ヶ月以上続くとブラックリストに登録される
個人信用情報機関のブラックリストに登録されると、その後は新たに借入の申込みをしても審査に通らなくなります。
1990年代、借金取立に際し経済ヤクザが顔を出すと、「目ん玉売るか」、「肝臓売るか」、「金が無ければ内臓を売れ」、「くじら、蟹業に行かせるぞ」、「死んで保険金で返せ」など非人道的なセリフが飛び出し、過酷・執拗な取立で一家心中、自殺に追い込まれる家族もありました。
今は、こんなことを言ったら即逮捕です。このような悲惨な状態が借金地獄と呼ばれています。このようなあくどい取立は、悪質な金融業者やヤクザに限った行為ではありません。国も国民健康保険の保険料滞納者に非人道的な取立、差押えをした事件が発生し、国会で問題化されたケースもありました。
5. 3K問題
- 高金利
「借金と金利」の項を読み直してください。 - 過剰融資
借金を返得させるためにさらに借金させる行為です。
「借金を質に置かせる」行為で無理やり金銭を工面させる悪質なやり方です。 - 苛酷な取立
「サラ金地獄」と「借金と自殺」の項を読んでください。
6. 借金と自殺
警察庁によると、2006年の自殺者数は32,155人、そのうち多重債務者は約8,000人と推定されています。同年8月、借り手が死亡・重度障害者で返済不能になった場合に備えて、借り手を生命保険に加入させサラ金業者が保険金の受取人となって、債務の返済に充当した事件が発生しました。
また、厚生省人口動態統計によると、1997年の自殺者数は2,491人、翌8年は3.6倍の33,863人と急増しています。これらの統計から、借金苦による自殺がピークに達したのは1990代後半と推定されます。
7. 消費者金融業者の悪徳商法
悪徳商法の主な手口をいくつか紹介しておきましょう。
- 高金利
- 苛酷な取立
- 回し
返済できない借り手を別の金融業者に紹介する。 - おまとめローン
複数のローンを一本化すると称して、延滞された金利を元本にくみいれ手元本を増額し、あらたな担保を取って貸し付ける。過払い金で返す必要のない金額を新しい債務に組み込んでしまう。 - 過剰貸し付け
借金を返済させるためにさらに借金させる、あるいは、借り手が必要ない資金を無理やり押し貸しする。 - 貸し付け限度の無断引上げ
健全な借り手の金銭感覚を麻痺させる手口。 - 命担保の貸し付け
借り手に無理やり生命保険をかけさせる。 - 個人信用情報の横流し
- 取立記録の改ざん
- 離職者支援資金貸付制度の悪用
離職証明書、源泉徴収票を偽造し、これを使って多重債務者を貸付制度の申請者に仕立て上げる。
8. サラ金と貸金業法
お金の貸し借りは、私どもが日常生活の歯車を円滑に回す上で必要な潤滑油です。金貸しの親玉は日本銀行を頂点とする銀行団で、一昔前までは主として大手企業向け大口融資を行っていました。
その銀行業務を規制するのが銀行法です。しかし、お金を貸す仕事を本業としているのは銀行だけではありません。民間の金融業者もいろいろな局面、例えば中小企業経営者向けの運転資金や個人向けの生活費などの小口融資の面でで活躍しています。これら金融業者を規制するのが貸金業法です。
出資法、割賦販売法、ヤミ金規正法、金利制限法とあいまって消費者金融規制5法と称されています。貸金業法はかって貸金業規正法と称されていましたが、2007年の改正で貸金業法と改称されました。
悪徳金融業者を取り締まる厳しい法律ですが、当初は消費者金融業界や俗議員の激しい抵抗で改正にてこずった時期がありました。同法の内容、成立経緯については「貸金業法はわが国の消費者金融の歴史」で詳しく述べておきました。
9. サラ金の消滅
前述した5。の「3K問題」並びに7.の「消費者金融業者の悪徳商法」が社会問題化されて貸金業法の改正を促し、業界は自滅していきました。驕る平家は久しからず、の好例です。
10. サラ金の復活
歴史的に見ても、庶民の間の小口金融は社会生活上不可欠なことは明らかです。悪徳金融業者は、最高裁の1968年判決(過払い金返還請求)や2006年判決(期限の利益喪失と利息制限法超過金利)と貸金業法の施行で息の根を止められたようにみえましたが、社会生活上の資金需要は決して衰えません。
最近、業界復活の動きが散見され始めました。1~2の例を挙げておきます。
- 三菱UFJの傘下に入ったアコムが地銀や大手銀行と提携し、銀行の個人向けローンの保証業務を受託する動きを示しています。
- 自民党が、貸金業法の規制を緩和する方向で検討を始めています。(2014年5月22日付け日本経済新聞)。
- 銀行カードローンや即日借入可能の広告が増加しています。
かって銀行法は、銀行の貸付を大企業への大口融資に専念させていました。2001年の金融ビッグバン以降、金融業界の大編成が起こりました。メガバンクが多数の小口金融業者を囲い込み、提携し、資本参加して自社の傘下に納めました。銀行が銀行ローンという名の下で甘みのある消費者金融業務へ乗り出してきました。
借金は「社会の必要悪」と言われています。借金は社会生活を順調に転がす上で必要な「潤滑油」です。借金そのものを否定することは出来ません。ただし、「借金は怖い」。
という感覚を常に持つことが大切です。コレステロールに善玉と悪玉とがあるように、金持で他人にお金を貸しつけて利益を得ようとする人にも、良い貸し手と悪い貸し手とがいます。金持のなかには悪い貸し手が隠れています。
彼らはあくどいやり方で暴利を貪ろうとする人たちです。これが怖いのです。くどくは言いません。なるだけ借金しないことです。
- 銀行カードローンとキャッシングの違い
クレジットカード業界は、キャッシングは「翌月一括返済」、カードローンは「リボまたは分割払い」と区別しています。 - リボ返済の恐ろしさ
リボ返済は毎月返済する金額が同じなので、返済金額増加への抵抗感が麻痺します。つまり借金するという感覚が希薄になります。借金地獄、多重債務の始まりです。 - 1日借金(江戸時代のいわゆる烏金)の金利払い
借金したその日に返済しても1日分の金利は払わなければならないのか?
民法140条の「初日不参加の原則」により、当日の借金残高がゼロであれば金利はかかりません。 - フリーローンとカードローンの違い
フリーローン・・審査は通り易い。返済を続けて利用枠がでても新たに借金することは出来ません(一度借りたら後は返すだけ)。
カードローン・・審査は厳しい。限度枠の範囲内で枠が残っている場合は、何度でも借金できます(枠内で自由に追加融資ができる)。
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