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クレジットカードと保険
まえがき
クレジットカード業界の保険制度は、カード会社が秘扱いにしており、さらに保険会社の隠蔽体質が重なって厚いベールに包まれています。業界の語り部と言われる私も実は兜を脱ぐ領域でした。10数年来このモヤモヤした感じが付きまとっていました。
そこで最後のご奉公とばかり老体に鞭打って調べた結果がこの記事です。物足りませんが力尽きました。若い方々の研究の一助となることを望みます。
1. 保険とは
保険とは、偶発的事故によって生じる財産上の損失に備えて、多数のものが金銭(保険料)を出し合い、そのプールされた資金によって事故が発生した者に金銭(保険金)を給付する制度です。
保険法第2条は、保険料の支払義務を負う人を保険契約者、事故が発生した場合に保険金を支払うことを引き受ける者を保険者(保険事業を営む会社、保険会社)、保険金を受け取る人を被保険者=保険金受取人(ベネフィシアリ)と定義しています。
保険契約者とベネフィシアリは同一人である場合と別々の人である場合があります。これを図示すると次のとおりとなります。
契約者と被保険者とが同一の場合
契約者 | 保険料 | 保険会社 |
被保険者 | 保険金 |
契約者と被保険者とが別の場合
契約者 | 保険料 | 保険会社 |
被保険者 | 保険金 |
2. 公保険と私保険
公保険は国が主体となる保険制度で、国民年金保険、医療保険、介護保険などがあります。私保険は民間で保険会社が主体となって営む保険です。生命保険、火災保険、地震保険、自動車保険、クレジットカード関連の保険などが私保険のグループに入ります。
これらの私保険については、国が加入を義務付けているもの(例えば自動車保険)、あるいは加入を奨励しているもの(例えば税法上優遇措置が講じられている地震保険)、任意に加入できるもの(生命保険など)があります。
3. クレジットカード関連の保険
クレジットカードの保険は自動付帯保険と特約保険とに分けられます。「付帯」とは主なものに付け沿えるという意味です。自動付帯保険とは、クレジットカード会員がとくに保険料を支払わなくても補償が受けられる保険です。
特約保険は、会員がカード会社に特別に依頼し、保険料を自己負担してカードに付けてもらう保険です。ところで、クレジットカードの付帯保険では、事故にあった人が個々に保険会社に保険事故を報告し、同社から直接保険金を受け取る仕組になっているのでしょうか。
実務社会でこのような面倒な手続は成り立ちません。事故に逢った人はカード会社に報告します。すると、カード会社が保険金相当額を会員に支払う。つまりカード会社が保険会社に代って保険金を代理払いするのです。
カード会社は、ここの事故ケースを一定期間保留し、これをまとめて保険会社に報告・処理するわけです。
4. クレジット会員規約上の保険の取扱
クレジットカード会社のカード会員規約の代表として、JCBカード, 三井住友カード、およびセゾンカードの3つを選び細かく書かれた条文を読んでみました。
JCBカード
- 第40条 カードの紛失、盗難による責任の区分
- 第41条 偽造カードが使用された場合の責任の区分
三井住友カード
- 第13条 紛失・盗難・偽造
- 第14条 会員補償制度
セゾンカード
- 第15条 カードの紛失・盗難等
- 第22条 その他承諾事項
偽造カードの調査依頼には協力いただく、免責云々の文言なし
5.クレジットカード保険の種類
クレジットカード関連の保険をベネフィシアリ別にみると次ぎの3つの種類に分類されます。
①カード会員をベネフィシアリとする保険
主なものを以下にリストアップしておきます。
- 紛失・盗難保険
届けた日から60日前にさかのぼり、その日以降に不正使用された損害をカード会社が負担します。この保険は、適用される場合と適用されない場合とが峻別されていますから要注意です。 - 国内旅行保険
死亡・後遺傷害の被害を補償します。 - ショッピング保険
カードで購入した商品が破損、盗難、火災などの偶発事故で損害を被った場合、被害を補償します。 - シートベルト保険
シートベルト着用時の交通事故に対する保険です。 - 海外旅行保険
「死亡・後遺傷害」、「治療費用」、「賠償責任」、「携行品損害」、「救援者費用」の5種類をカバーします。自動付帯、特約付帯、家族特約の3つがあります。 - スポーツ傷害保険
他人を傷つけたときに備えた保険です。 - ゴルフ保険
ホールインワン、クラブ破損等に備えた保険です。 - クレジットセイバー
クレジットカード会員が死亡した場合、債務残高の支払いを免除する保険です。
②加盟店をベネフィシアリとする保険
チャージバック補償団体保険
- 楽天
2015年2月1日実施 - GMOペイメントゲートウエイ㈱
2015年3月15日実施
③カード会社をベネフィシアリとする偽造カード保険
1980年代、MasterCard Internationalがメンバーに対して適用していた保険制度です。その仕組は以下のとおりでした。
- 保険契約者
MasterCard International - 保険会社
ロンドンのロイズバンクを中心とする銀行団 - 不保険者
MasterCard のメンバー会社 - 審査方法
本部の職員が年に1回来日し、数日間滞在して、MasterCard International 東京事務所でメンバーが持ち込む必要書類を1件ごとに審査する。審査は大変厳しく、日本のカード会社の担当者との間で丁々発止のヤリトリが深夜まで続くことが普通でした。立ち会った私があきれ果てるような細かな点まで審査の対象となっていました。
この制度は、北海油田火災、大型タンカー事故、湾岸戦争の勃発等でロイズ銀行が赤字におちいり、199年代初めに終了しました。現在この制度が復活しているかどうかは分かりません。
6. 偽造カード保険
偽造カード保険は、カードの偽造や不正使用により生じたカード所有者の損害を一部または全部を補償する保険です。
キャッシュカードについては、当初、銀行は、民法478条を楯にとって預金者に補償しないスタンスを取っていましたが、2006年の預金者保護法成立以降、預金者側に重大な過失があると銀行側が証明できる場合を除き、原則として補償するようになりました。
クレジットカーについては、前述しましたように、カード会員規約でカードの紛失・盗難等の補償が定められていますが、大手数社の規約を詳しく読んでも、偽造カードの補償については明文の規定はありません。
盗難等の「等」に偽造カードが含まれているのかもしれませんがよく分かりません。各社ともケースバイケースで処理しているようです。
なお、一部の石油系カード会社がガソリンスタンドで偽造カードが使われた場合の損失を補償する制度がある(あった?)と伝えれていますが、確証お見つけることは出来ません。
7. 郵貯ジョイントカード
1984年に日本信販が郵政省の認定を受けて発行した「日本信販・郵便貯金ジョイントカード」はキャッシュカードとクレジットカードの機能を併せ持つカードでした。
当時、日本信販が単体で発行していたクレジットカードには偽造カード保険は付帯さていませんでしたが、一方、郵政省が発行していた郵貯キャッシュカードには偽造保険が付されていました。
両者が合体して発行された日本信販・郵貯ジョイントカードには、この偽造保険が付されたと伝えられています。このカードは、2007年10月の郵政民営化に伴うゆうちょ銀行への移行により、新規発行はストップされましたが、そのクレジットカード機能はクレディセゾンが2007年11月から発行した「セゾンNEXTカード」に引き継がれています。
8. 結び
以上が、手に届くあらゆる資料を調べ、推測し、尋ねまわった私の貧しい記録です。確率論の大数の法則の考え方に基づく保険制度は古い歴史を持っています。
古代ローマのコレキウム(葬儀組合)に始り、中世ヨーロッパのギルト(商工業者職種別団体)を経て、14世紀後半登場した海上保険で現在の骨格が固まったと伝えられています。
クレジットカード会社のカード会員規約は、保険についての条文・文言がマチマチで統一されていません。土台がぐらぐらしているので、カード各社の事故補償・保険に対するスタンスもどこか腰が引けているように窺われます。
保険会社の体質がもっとオープンになるとよいのですが。社会の基礎を支えるのが「決済制度」、その表面上で発生する偶発事故あるいは不正行為に備えるのが「保険制度」と言われています。若い方々の保険に関する研究が進むのを願っています。
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