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クレディセゾン
まえがき
帝国ホテルインペリアルタワーの一郭を占めた創立早々のVISA International 東京事務所の応接室で、私が初めて 林野宏氏(当時、クレディセゾンの常務取締役、社長は竹内敏雄氏でした) にお会いしたのは1986年のことでした。
流通系クレディセゾンとダイエーOMC, 信販系の日本信販の3社の銀行系VISA International への加盟話が持ち上がったときでした。眼光けいけい、「切れ者」という印象を得たことを覚えています。
それから約30年が経過し、林野氏はいまやクレディセゾンという大手クレジットカード会社を統率される名社長として活躍されています。
同社は最近東南アジアにも進出しています。その急激な成長に私は興味を持ち、同社の源流を辿ってみました。以下はその記録です。
1. セゾングループ
セゾングループは、堤康次郎が創業した西武鉄道を中心とする西部企業グループです。最盛期には、12の基幹グループ・約100社を擁しました。
堤康次郎の死(1964年)後義明、清二(故人)の2兄弟が事業を継ぎ、1971年、このグループは鉄道部門と流通部門の二つに分かれました。
流通部門を旗揚げした堤清二は、流行の先端、若者文化や先進的アートとの協調などを重視するいわゆる「感性の経営」と称される独自の文化戦略を進め事業を拡大しました。
当時のセゾングループの中核流通5社と称される企業は次のとおりです。
西武百貨店 | 百貨店業 |
---|---|
西友 | 小売業 |
クレディセゾン | クレジットカード業 |
西洋フード・コンパスグループ | 飲食店業 |
クレディセゾン | クレジットカード業 |
バブル崩壊後、日本経済が長期不況期入ると、この「感性の経営」戦略も行き詰まりを見せ始めました。百貨店離れ、スーパー離れがあらわになりました。
加えてイトマン事件が発生、西武百貨店が裏社会のフィクサー許永中とかかわったなどが報道され、その企業イメージが損なわれてきました。
カリスマ的な堤一家を信用の裏づけとした体制や堤清二のワンマン体制が崩れ、グループ内企業のリストラが進められました。
第一勧業銀行を中心とする取引銀行団が強く働き西武観光開発も清算を余儀なくされ、セゾングループは2001年に事実上解散に追いこまれました。
しかし、その後も、グループ内のセゾン系各社の結束は続き、西部百貨店を傘下に置くミレニアムリテーリング㈱はセブン&アイと合併し、2006年、クレディセゾンはセブンホールディングスの「SEIBUプリンスカード」を発行、2011年、それまでクレディセゾン単体で扱ってきたそごう・西武の提携カードを㈱セブンCSカードサービスへ事業譲渡するなど、クレディセゾンの体制建て直しが進めら得ました。
2. クレディセゾンの誕生
1989年、流通系クレジットカード会社として誕生しました。1990年代に活躍する同系の大手クレジットカード会社としては、同社のほかダイエーオーエムシー、イオンクレジットサービスマイカルカードがあげられます。
現在の林野社長は西武百貨店からクレディセゾンに乗り込んでこられました。当時、若手人材の柔軟な発想を積極的に採用する会社としてその名が広がっていきました。
母体は、上述したセゾングループで、同社はこのグループの中核5社の一つとして、グループを支えていました。成立・成長経緯を詳しくみると次のとおりとなります。
成立経緯
(ア) 和洋家具専門店 岡本商店
1951年 | 月賦制の小売店 緑屋 |
---|---|
1980年 | ㈱緑屋から㈱西武クレジットに改名 |
1982年 | 西武カード発行開始 |
1983年 | 西武カードからセゾンカードに改称 |
1986年 | VISA(Special Licenseeとして), MasterCard と提携 |
1988年 | 社名を株西部クレジットから㈱クレディセゾンに変更 |
1995年 | JCBと提携 |
1997年 | AMEXと提携 |
1999年 | 銀行との一体型カード、荘銀セゾンカード、スルガセゾンカード発行 |
2003年 | 出光興産とカード事業部門における包括提携、出光カード発行 |
2004年 | 高島屋とカード事業の戦略的提携、タカシマヤセゾンカード発行 |
同上 | みずほFG、みずほ銀行、ユーシーカードとクレジットカード事業における戦略的業務提携 |
2005年 | ユーシーカード(UC会員事業会社)と合併 |
2006年 | 静岡銀行と事業提携、静銀セゾンカード㈱設立。 |
2007年 | キャッシング金利上限を18%に引下げ |
同上 | 業界初の総合プロセシングサービス専門会社、キュービタスを設立。 |
2010年 | セブン&アイFGと包括的業務提携 |
同上 | AMEXとの提携関係を強化 |
2011年 | 業界初、「永久不滅ポイント」でネットショッピングの決済を可能化 |
同上 | 中国銀聯と日本国内における加盟店業務で提携 |
3. クレディセゾンのクレジットカード取扱高
クレディセゾン(単体)のクレジットカード取扱高を調べて見ました(月刊消費者信用、各年9月号による)。
ショッピング | キャッシング | 合計 | |
---|---|---|---|
1996年度 | 8,695億円 | 6,648億円 | 1兆5,343億円 |
2013年度 | 3兆8,529億円 | 2兆5,680億円 | 6兆4,210億円 |
- 主要クレジットカード会社の取扱順位(注)
1996年度 5位
2013年度 3位
(注) 1位のJCBグループ, 2位のVISAグループの計数はいずれもグループ内各社の合計数であり、しかも計上基準が統一されていなので、単純比較は困難です - 16年間で、取扱高は。約4.2倍に増えています。
4. キャッシングに注力
クレディセゾンのキャッシング取扱高の推移を見ると、平均的にみて他社に比べキャッシングの数字が大きいようです。この傾向は現在も続き、「おまとめローン」、「来店不要」、「即日融資」をモットーとしてキャシングに注力しているようです。
5. 永久不滅のポイント
クレディセゾンが2006年にカード業界で初めて打ち出したカード会員へのポイント還元制度です。
- 永久不滅……ポイントは通常しよう・交換期限がありますが、これが無制限。
- 貯める………貯め方にいろいろな方法がある。
- 使える………カードの支払いもポイントでOK.
- 交換できる…家電など300以上のアイテムや商品券にこうかんできる。
日本には昔から、顔なじみの客へ割引・おまけをサービスする習慣がありました。ポイント制度は、この行為を定量化・システム化したもので、1958年、共通スタンプサービスという形で始りました。
なお、航空会社によるポイントサービスは、とくにマイレージサービスと呼ばれています。
6. 業界No1の債権管理・回収力
弁護士等第三者介入債権の新規発生件数
2005年 | 3,100件 |
---|---|
2009年 | 5,900件(ピーク) |
2012年 | 1,800件 |
2013年 | 1,500件(目標) |
7. 国際ブランドカード会社との提携
1986年 | VISA Special Licensee |
---|---|
同上 | MasterCard |
1995年 | JCB |
1997年 | AMEX |
8. 流通系と銀行系との結びつき
【ユーシーカードを吸収合併】
流通系のクレジットカード会社が銀行系のクレジットカード会社を吸収した注目すべき合併劇です。クレディセゾンの「合併に関するおしらせ」(2005年11月9日付け)は、これを次のとおり簡潔に述べています。
- クレディセゾンはみずほFG、みずほ銀行、ユーシーカードと戦略的業務提携を行うことで合意する。
- クレディセゾンは、加盟店・プロセッシング事業分割後のユーシーカード(UC
会員事業会社)と合併する。 - これにより、クレディセゾンは、セゾンカードとUCカードの両ブランドを取り扱い、流通糸と銀行系のサービス機能を最大限に活用することにより、規模のメリットを活かした積極的な営業展開が可能となる。
- 合併の方式は、クレディセゾンを存続会社とする吸収合併方式で、ユーシーカード㈱(UC会員事業会社)は解散する。
【みずほFGと資本・業務提携】
2,004年、クレディセゾンはみずほFGとの間に資本・業務提携を結びました。これにより次の内容が実現されました。
- 銀行系と流通系というカード会社の設立母体の垣根を越えた日本初の金融業界の再編が行われました。
- 2006年の貸金業法改正に関連するキャシング業務の収縮に対応し、過払い金返還要求に備えた巨額な貸し倒れ引当金の積み上げられました。
- キャッシング収益に頼らない収益構造に改革されました。
- ヤマダ電機、三井アウトレット等の大型商業施設・専門店との提携が強化されました。
- 永久不滅のポイント・サービスが開発されました。
- キュービタスへのカード・ローン関連審査。信用管理などのプロセシング業務が委託されました。
9. 結び
偉大な創業者が一代で築きあげた財閥ならびにグループには、共通した歩みがうかがわれて興味深いところがあります。ただ、月日の経過とともに経営体質に大きな隔たりが生じてきました。
クレディセゾンの路線と毅然とした独立独歩の気風、そして業容の広さには瞠目すべきものがあります。今後、同社がさらにどのように成長し、新機軸を打ち出すのか、注目されます。
【独立独歩のスタンス】
- みずほ銀行との関係
他の大手クレジットカード会社と異なり、メガバンクの傘下に入らず独自の路線を堅持、みずほグループとはつかず離れずという微妙な隔たりを保ちながら資本・業務提携を締結・維持しています。
【提携先の広さ】
金融機関 | みずほ銀行、じぶん銀行、地銀、第二銀行など |
---|---|
流通 | ローソン、西武百貨店、そごう、パルコ、ロフト、高島屋、西友など |
鉄道 | 西武鉄道、地下鉄各線、東急東横線など |
通信 | SoftBankカード、ソフトバンクペイメントサービスなど |
放送 | wowow, ジュピターテレコムなど |
その他 | 東京ガスエネルギー、TOHOシネマズ、日本サッカー協会、日本白血病研究基金、埼玉 |
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