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クレジットカード関連統計のはなし
まえがき
机上の小さな本立てに5冊の大学ノートが並んでいます。ノートにはびっしりとクレジットカードに関連した新聞記事の切り抜きが張ってありますので、ノートの厚さは通常の倍以上に膨れ上がっています。ノートには一連番号を付しています。
いま使っているノートは58冊目です。机の横にある整理棚ではとても納めきれません。捨てるに忍びず、古いものは3階の屋根裏部屋に積み重なっています。切り抜きには新聞名と年月日が朱筆されています。新聞は、日本経済新聞、朝日、毎日、産経、東京新聞の5種です。
毎日くまなく読んで拾い出して切り抜き、あるいはコピーしたものをノートに貼り付けているわけです。5種類全部を購読することはできませんので、近所の図書館に毎朝通います。現役退職後の私の生活習慣の一部となりました。
小旅行、入院等で中断すると後が大変ですが、とにかく今日まで続けてきました。このノートが私のクレジットカード業界の動きや統計に対する重要なアンテナの一つとなっています。
1. 統計を探す
次ぎの手段により統計作成の一助になる数字を拾い出します。
- 近所の図書館、杉並区中央図書館、日本銀行図書室、広尾の東京都中央図書館、国会図書館で資料を探す
- YAHOO, Googleで検索する
- カード業界専門団体の出版物を調べる
- IT業界シンクタンクの研究論文、発表文を探す
- 日本銀行調査統計局などの資料による
- VISA, MasterCardの資料による
- 経済産業省、金融庁、内閣府など官公庁の相談室に質問する
- 大手クレジットカード会社から聞き込む
- 警察庁の警察白書、犯罪白書を読む
- 学者先生の参考文献を探す
- 毎日の新聞切抜きから、少しでも関係ありと考えられる統計数字を拾い出す
- テレビのニュース報道からこれはと思う統計計数をメモする
- 私のパソコンには「クレジットカード関係、グーグル・アラート」の記事が自動的にダウンロードされてくるように設定されています。毎日10数件表示され有力な情報源となっています。
2. 統計計数の出典と確認
最も神経を使うのは出典と正確性です。統計の数字に慣れてくると、例えば、いい加減な新聞記事 (記者さんの勉強不足) はすぐ気付くことができるようになります。新人が書いた記事だな、とすぐ分かりニヤリとするわけです。
A新聞とB新聞の記事の比較突合も欠かせません。出典と発表年月日を必ず確認ておくことも必要です。わが社の「統計数字を無断で借用した」とお叱りを受けるこがないよう気お付けています。
このように注意して書いた統計原稿でも、出版社のベテラン編集部員さんは弱点を見つけてすぐ私に鋭く質問してきます。経費面から見ても一番お金がかかるのが統計作成作業です。
3. これまで集めたクレジットカード関連統計の種類
クレジットカード関連の統計(図表)は、幾つあるべきか、などの決まりはありません。カードが誕生してから今日まで自然に積み上げられ、積み重ねられてきたいろいろな計数を集めて、数字を追いながらカード業界の動き・全体像を少しでも掴めるように整理していくわけですので、図表の数は限定できません。
時系列が揃った統計があれば最も都合がよいのですが、あまりありません。2年に1回発表されるもの、単発形式で突然出てくるものなどがかなりあります。要うするに、これらの統計数字を出来るだけ多く探し出して集め、全体像を理解できるように組み立てていくのが作成のコツです。
拙著、「クレジットカード用語事典」 平成23年2が16日出版、民事法研究会 (現在改訂版を準備中)の図表を数えてみました。図が20、表が53合計73コあります。おもなものを以下にリストアップしておきます。
- クレジットカード・オンアス取引の流れ
- クレジットカード・ノンオンアス取引の流れ
- 海外クレジットカード取引決済の流れ
- VISA多通貨決済制度の概要
- 国際カード取引とチャージバックの流れ
- 磁気テープ記録様式
- オーソリゼーション請求の内容
- オーソリゼーションのスクリーニング・テーブル
- 割賦販売法の割賦販売とクレジットカードとの関係
- クレジットカード会社の業務内容
- インターネット管理体制
- チャージバック制度の内外比較
- 信用照会端末機の種類
- POS端末の機能
- 磁気テープのJIS規格
- インターネット・ショッピングの決済方法
- ICカードとMTカードとの比較
- 主要国の偽造クレジットカード取締法の比較
- 加盟店クレジットカード関連の不正行為の累計
- わが国におけるクレジットカード不正利用による被害額
- クレジットカード不正使用による被害発生率・世界平均と日本
- 摘発された地下銀行の動き
- クレジットカード紛失。盗難保険の保険金支払額
- 金融機関の変遷図
- クレジットカード発行枚数
- クレジットカード取引高
- xxx年度主要xxx社のショッピング取扱高
- クレジットカードの年間平均利用回数と利用金額
- 国際ブランドの実績
- VISA・MasterCard のチャージバック・リーズンの分類
- 国際ブランド別の換算レートと手数料
- 加盟店数
- 貸金業者の消費者向け平均金利水準
- ATMの設置台数
- ATM回線の誕生と推移
- わが国の通信販売業界の売上高の推移
- 通信販売の代金決済方法におけるクレジットカードの利用比率
- PIONET 消費生活相談件数
- 電子商取引の市場規模
- 電子商取引の決済方法におけるクレジットカード利用比率
- カード犯罪任地・検挙件数の推移
- サイバー犯罪の検挙件数とその内訳
- サイバー犯罪に関する相談件数の推移
- 振込め詐欺(特殊詐欺)の認知・検挙件数の推移
- 世界各主要国の金保有高
- 家計の個人金融資産に占める現金の割合 日米比較
- GDPに占める現金流通量の比率
- 民間最終消費支出に占めるクレジットカード売上高の割合 日米比較
- 商品代金の支払時におけるクレジットカード等の使用率
- 日常的な支払いにおける主な決済手段
4. 統計集めの苦労話
現役を退いてから40年間弱、クレジットカード関連の統計つくるうえで苦労したことを思い出しましたので、そのうちいくつかを書いておきます。
- 業界の知人から「出典は極秘」として教えてもらった貴重な数字などがあります。
どのように料理して食卓に出すか? 難しいところです。 - 業界団体から出版される定期的な刊行物が幾つかあります。よい数字がびっしり詰まっています。咽から手が出るほど入手したいのですが高価すぎて手が出ません。手間を掛けて集めた数字でしょう。「やすやすと教えるものか」の気持ちはよく分かりますが・・・・。
近所の図書館にもありません。六本木の中央図書館か日銀図書室を訪れることとなりますが、杖を突きつきやっと辿りつくと貸し出し中で、トボトボと帰宅しました。 - 官庁の発表する計数とシンクタンクの調査論文の数字の格差が大きくて、どちらをとるべきか途方にくれます。
- よい計数ですがどんなに探しても時系列が揃いません。
- 年度と年、四半期別の整理は頭が痛いです
- 業界によっては、隠蔽体質が濃厚で、欲しい数字は決して教えてくれません。
2つの業界がとくにガードが固いようです。
5. 統計作成上心掛けてきたこと
とくに重要と思われるものを掲げておきます。
- 正確性を求めること
- 出典を明らかにすること
- 時系列を重視すること
- 最新性、常に新しい数字を求めること
- アンケートに対する重複回答、推定値・予想額の扱いは慎重にすること
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