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貸金業法
1. まえがき
「お金を貸す」という言葉を聞くと、私どもはすぐ、高利貸しとか、ヤミ金とか悪い意味での金貸しを連想しがちです。しかし、よい意味での金貸しは世の中で必要であり、数多くの業者が活躍しています。
お金の貸し借りは、私どもが日常生活の歯車を円滑に回す上で必要不可欠な潤滑油の役割を果たしています。このことは、給料日の前に主婦が苦労する家計のヤリクリ、小規模工場主のつなぎ融資、運転資金、手形決済日の先延ばしなどを思えば容易に理解できるはずです。
金貸しの親玉は日本銀行並びに各種の銀行ですです。この銀行業務を規制する法律が銀行法です。1981年に制定されました。お金を貸す仕事をしている人は銀行だけではありません、いろいろな種類の金融業者が活躍しています。
これらの金融業者の中には、よからぬ、悪辣な目的でお金を貸す人たちも含まれています。金融業者を規制するのが貸金業法です。
「サラ金規正法」という安っぽいあだ名で呼ばれていますが、割賦販売法、出資法と並んで、金融業務を規制する大切な法律です。クレジットカードとの接点は、 カードのキャッシング機能にあります。
2. 貸金業法とは
貸金業法は、貸金業者について登録制度を設け、かつ、貸金業者の団体を認可することにより貸金業務の適正な運営を確保することを目的として、1983年に「貸金業規正法という名の下で議員立法されました。
その後、社会情勢の変化に応じ、割賦販売法と同様、数多くの改正が加えられ、カード社会を規制する3つのうちの一つの法律と目されるようになってきました。
貸金業法とクレジットカードのかかわりは、「銀行及び外国の銀行でない者」、すなわち、クレジットカード会社や信販会社、割賦販売業者など、銀行以外の者がキャッシングローンを提供する場合は、貸金業法に基づいて登録することが義務付けられている点にあります。
この法律は、先に述べた割賦販売法と同様、当初はクレジットカードの存在そのものをまったく意識しておらず、単に貸金業者のお行儀をよくすることを目的として制定された法律でした。
3. 貸金業法誕生・改正の社会的背景
第1回目の改正は、2003年に行われました。この年は、前述したカード犯罪の第4期、IT技術を駆使する犯罪が本格化した2000年代前半に当たります。
サラ金3悪、3K問題、自殺による返金の強制、悪徳商法の跋扈などが社会問題化され始めました。これに対応するために同法の改正案が議会に上程されましたが、業界や族議員の抵抗が強く、改正は5段階にわたって少しずつ施行せざるを得ない時期もありました。
4. 規正法の段階的施行
第1次施行(2006年12月20日)
改正法補則第66条・・・最初は、政府の責務を謳いあげるにとどまりました。これは、法施行を先送りしようとする反対派の努力が効を奏した結果と言われています。
(政府の責務)
「政府は、多重債務者問題の解決の重要性にかんがみ、借入又は返済の相談や助言等を受けることができる体制の整備、資金需要者への資金の融通を図るための仕組をつくり、貸金業者に対する取締を強化し、悪質な貸金業者の処分するための施策を、総合的かつ効果的に推進するよう努めなければならない」。
第2次施行(2007年1月20日)
改正法1条(目的)と26条(貸金業協会の設立の認可)が施行されました。
第3次施行(2007年12月19日)
施行後1年経ってやっと具体的な取締策が登場してきました。
第4次施行(2009年6月18日)
- 業者の財産的基礎要件の強化・・・従来の「個人300万円、法人500万円」を2,000万円に引上げて、業者の財務的基礎を強化させました。
- 貸金業務取扱主任者資格(国家資格)制度の創設・・・従来の業界資格を格上げして、全国共通の専門家を養成するための講習が始まりました。
- 指定信用情報機関の創設・・・「個人信用状機関」の項を読み直してください。
第5次施行(2010年6月18日)
- 貸金業務取扱主任者の必置
- 業者の財産的基礎要件の再強化・・・2,000万円がさらに5,000万円に引き上げられました。
- 総量規制の導入・・・指定個人信用情報機関のデータを利用して、1社で50万円、又は他社と合わせて100万円を超える貸付を行う場合には、源泉徴収表の提出を受けることを義務付け、年収の3分の1を超える貸付は原則として禁止されました。
ただし、緊急医療費、個人事業主の事業資金貸付、つなぎ融資、配偶者貸付(夫婦の年収を合算してその3ぶんの1とする)は特例措置として例外規定が設 けられています。 - みなし弁済制度の廃止・・・貸金業規正法(現在の貸金業法)43条は、債務者が
グレーゾーン金利に基づいて計算されたの金利を任意で支払った場合は有効な利息の支払いとみなしていました。これを「みなし弁済」と称していました。
最高裁の判例によりこのみなし弁済制度を規定した43条は廃止されました。「金利と借金」の項を読み直してください。 - 日歩貸金業者
(注)並びに電話担保金融の廃止
(注)中小の商工業者を対象とする融資。日掛けローン、日掛け融資ともいう。毎日返済する。金利は出資法の特例措置として54.75%が認められた。 - 社会通念上常識的と認められる債務者の申し出に従わない取立て行為が明文で禁止されました。
(例)借主が「xx月xx日xx時に返済するから来宅して欲しい」と申し出た場合、この申し出が非常識なものでなければ、その申し出以外の時刻に取り立てのために訪問することは禁止されます。 - 「強制執行認諾付公正証書」
- 貸金業の登録を取り消す権限の強化
- ヤミ金融対策の強化・・・罰則引上げ。懲役5年以下、罰金10百万円以下が10年以下、30百万円以下に強化されました。
- 広告の規制
- 附則67条(見直し・検討規定)の追加
5. 金業法改正がクレジットカード業界に及ぼした影響
直接的な影響
(1)総量規制の影響
(2)カード発行審査体制の見直し
総量規制はクレジットカード会社nカード発行審査体制にも影響を充て始めています。申請があり、審査にパスすれば一人のカード会員に対し何種類でもカードを発行してきたやり方を見直すイシュアもでてきました。
(3)広告姿勢の影響
広告宣伝の頻度、広告の表現、他社の返済に係わるような表現、誰でもすぐカードを発行するという表現などにも当局が厳しい目をひからせています。
(4) クレジットカード会社の利益お圧迫
カード会社が取扱うATMも登録の対象となりましたその結果、ATMを全国的規模で共同利用しているカード会社は、そのリストを変更の都度当局に呈する義務が課せられました。リスト作成費用がかなりの負担増となるといわれています。
間接的な影響
(1) 多重債務者の数の減少
統計上は確かに減少傾向にあります。しかし、実態は果たしてそうなのでしようか。お金の潜在的需要者数が、法律の施行・改正のみで変わることがあるのでしょうか。潜在的需要者は地下にもぐっただけ、という説があります。
(2) ヤミ金融業者の台頭
登録から除名された貸金業者、法定の資産規模を持たない金貸し業者、最初から地下にもぐり法違反覚悟で荒稼ぎを企てる金貸し、潜在的な資金需要者が存在する限り、彼らの跋扈は絶えないでしょう。
6.参考
貸金業法の俗称が「サラ金規正法」であることは、まえがきで触れました。この俗称の外に、「ヤミ金融対策法」という俗称が貸金業法の参考書に時々出てきます。両者は間接的には関係がありますが、まったく別の名称です。
平成15年第156回通常国会で貸金業規正法の一部を改正する法律「貸金業規正法及び出資法の一部改正法」が8月1日に成立し、翌年の平成16年1月1日に施行されました。
この法律の俗称が「ヤミ金融対策法」です。つまり、サラ金規正法をがヤミ金融対策法が改正したわけです。混同しがちです。 注意しましょう。
ヤミ金融対策法の主な内容は次のとおりです。
- 貸金業登録制度の強化
- 罰則の引上げ
- 違法な広告・勧誘行為の規制
- 取立行為の規制強化
- 高金利利息での貸付契約の無効化
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