公開日: : 最終更新日:2014/10/10
金利と借金
金利と口で言うのは簡単です。しかし、その種類は多岐にわたり、私どもの生活に深く根を下ろしています。ひとたび扱い方を間違えると牙をむき、命にかかわることもあります。
借金はできればしないことです。どうしてもする必要があるときは、まず、金利にかかわる契約をよく頭に入れてからにしてください。
以下、金利と借金をめぐるいろいろな話をリストアップしておきます。金利の説明には法律用語が沢山飛び出して難しいところがあると思います。我慢して読んでください。
金利とは
金利とは資金を一定期間貸したことに対して支払われる報酬のことです。また、金利は利息額の元金に対する割合の意味でもあります。これを利子といいます。
手数料など、利息に含まれるもの、逆に含まれないものは次のとおりです(利限法第3条ならびに出資法第5条の4の第4項)。
- 含まれるもの…礼金、割引料、手数料、調査料、その他どんな名義でも債務者が債権者に払う元本以外の金銭
- 含まれないもの…ATM手数料、カード再発行手数料、特定の口座振替手数料、貸金業法で定める書面の再発行手数料
江戸時代の落語の人気者、八五郎が毎朝大家さんから銭100文借りて出かけていき、一日働いて夕方帰宅して101文を返す、いわゆる「百一文」を例にとって説明します。
朝借りる銭100文が元金、夕方返す101文のうち100文が元金返済、1文が利息で、100文に対する1文の割合が利子です。
この場合、借りた期間は一日ですから、この割合は「日歩1文」(年利に換算すると3.65%)です。
金利はいつごろから始まったか
紀元前3000年、世界最古のMesopotamia文明時代に、寺院や土地所有者による利子付きの貸出しが行われていたと伝えられています。
シェークスピア(1594年)の「ヴェニスの商人」に出てくるユダヤ人の「人肉裁判、胸肉1ポンド」は明らかに利子にまつわる話です。
日本でも 聖徳太子の大化の改新時代における僧侶や大地主の酒造家による金貸しに対するお百姓さんの竹かご一杯の野菜のお礼も一種の利子と見てよいでしょう。
宗教によっては、利息を取るのを禁止したものもあるそうです。
金利の計算方法
次ぎの3つの計算方法があります。
- 日歩と年利…期間が月単位のときは月利といいます。日歩は日本独特の計算方法です。諸外国がほとんどが年利建てであるため、経済の国際化に伴い1969年9月1日より日歩表示は原則として廃止され、年利建てに移行しました。
- 単利と複利…単利とは、元金に対してのみ期間に比例して利息を計算する方法です。一方、複利とは、期間の途中で(例えば、3年間の貸付で各年末ごとに)利息を計算しこれを元金に繰り入れて、その合計金額を元金として同じ利率で利息を計算する方法です。
利子が利子を生む計算となりますので、貸付期間が長くなると、利息額は、単利で計算した場合に較べ幾何学的に大きくなり貸手に有利となります。
複利の計算は大変複雑になりますので、あらかじめ計算された複利表を使用します。
10万円を20年間、5%で貸し付けた場合における単利と複利との利息額の差を実例で示すと次のようになります。
- 両端入れと片落し…金利の計算を行う際、最初と最後の日を入れるか、入れないか、の問題です。 貸付期間が長期になれば余り目立ちませんが、コールのような1日、2日の貸借の時には大きな問題となります。預金金利やコールの計算には片落しの計算方法が、一方、貸付の場合には両端入れの計算方法が用いられています。
金利の種類
いろいろな分け方があります。自由金利と規制金利、公定歩合連動型金利、単利と複利、日歩と年利、固定金利と変動金利などです。ここでは一例として、短期(満期までの期間が1年以下)金利と長期金利の形を示しておきましょう。
金利を取り締まる法律
これら二つの法律が次のように金利の上限を定めています。なお、この二つの法律のほか、貸金業法(旧:貸金業規正法、2007年12月19日貸金業法と改称)と民法第478条がやはり金利に関連した法令です。
- ①利息制限法
10万円未満…年利20%
10万円以上100万円未満…18%
100万円以上…15% - ②出資法 施行当時…109.5%
その後5回の改正を経て現在は20%
これを見て2つの疑問が生じます。①出資法が施行されたときの上限金利は、当時すでに存在していた利息制限法の上限金利15~20%である低い水準を無視して、なぜ109.5%という高い水準に定められたのか、また、②これら二つの法律が定める上限金利になぜこのような大きな開きが出るのが許容されたのか、という問題です。
いろいろ調べてみましたがはっきりしません。
そこで、日頃お付き合いいただいている弁護士さんに質問しました。以下は、弁護士さんから教えていただいた話と私の推測をブレンドした答えです。
①司法の世界では、民事法と刑事法では対応が違います。事案がこと刑事法となると、国(族議員や裁判所)は直ちにまともに対処しますが、事案が民事法の場合には、国は、当事者に任せ、当事者で好きなようにやらせ、その結果問題が出て当事者が国に助けを求めてきたとき初めて国が乗り出すという風潮があります。
②109.5%という金利水準は当時は余り問題とされず受入れられていたようです。
③利息制限法は当時、消費者金融業界から目の敵にされ、事あるごとに利息制限法撤廃論が飛び出していました。
④出資法は刑事法として消費者金融業界によるあくどい行為(いわゆる3K問題)を取り締まることを目的とする法律です。刑事法として罰則を伴う出資法を作るプロセスにおいて、貸す立場すなわち消費者金融業者・族議員の抵抗はとても激しかったと伝えられています。
貸す立場・貸金業界と借りる立場・消費者擁護派とのせめぎ合いが続き、その過程において民事法である利息制限法は隅に押しやられてしまい、その結果、二つの乖離する法律が生まれたのではないか、と筆者は考えます。
この考えはあくまで筆者の推測です。もっとよい答えをお知りの方はどうか教えてください。利息制限法は誕生以来実に60数年を経て最近やっと陽の目を見るようになったようです。
3K問題
3Kは、高金利、苛酷な取立、過剰貸付の三つの言葉の頭文字Kに由来したものです。このため自殺者がでて、社会問題化しました。
上限金利の段階的引下
利息制限法の上限金利は施行以来、15%(10万円以下)、18%(10万円以上100万円未満)ならびに20%(100万円以上)と一貫して変わりません。
一方、出資法の上限金利は次のとおり5回変更されて現在20%まで引き下げられ、約50年間かけてようやく利息制限法の水準と同一になりました。
- 1954年…施行…109.5%
- 1983年…73%へ引下げ
- 1986年…54.75%
- 1991年…40.003%
- 2000年…29.2%
- 2008年…20%
グレーゾーン金利とは
貸金業法は、貸金業者が上限金利を上回る金利で貸付を行った場合は刑事罰の対象とすると定めています。一方、利限法では、上限金利を上回る金利を適用しても、契約を無効とするだけで、刑事罰の対象とはなりません。
上記⑤と⑥にはさまれた金利がグレーゾーン金利です。グレーつまり灰色の金利は刑事罰の例外規定です。なぜそんな規定が生まれたのか?
これは、上限金利の引下げに激しく抵抗する業界・族議員に対する「アメ玉」だ、と言われています。
みなし弁済規定
1983年、貸金業規制法(現:貸金業法)が成立しました。同法は、貸金業者に対する登録や規制を強化することと引き換えに、貸金業者に「みなし弁済」という恩典を与えました。
いわゆる「むちとアメ玉」です。同法第43条は、一定の条件を満たせば、制限利息の支払を有効な利息債務の弁済とみなすと定めました。
この「みなし弁済」が成立すると、貸金業者は、自分の計算どおりの貸し金を請求することができ、過払金の発生を防ぐことが出来ます。この規定は貸金業者側が勝ち取った大変有利な条項となりました。
民法第478条
債権の準占有者に対する弁済は有効である、とする民法の規定です。具体例を挙げて説明します。貴方がうっかりして暗証番号をメモ書きした紙切れとクレジットカードを落としたとします。
これを拾った男が貴方になりすまして銀行の預金口座からATMを使って現金を引き出し、そのまま行方をくらませたとしましょう。貴方は、銀行側の預金管理に欠陥があったとして、引出されたお金を弁償するよう銀行に請求しました。
銀行はこの民法第478条を楯にとって、あなたの請求を断ることが出来ました。これがこの第478条の効力です。
金利をめぐる最高裁の判決
利息制限法が誕生(1954年)して以来の同法に絡む最高裁判所判決を調べてみました。全部で19件見つけました。
初めのころの判決は、どちらかといえば、利息制限法の上限金利を無視した貸し手側に味方する判決が続きましたが、1968年の判決を境にして、判決の内容が180度転換し、消費者擁護の色彩が全面に押し出されてきました。
以下、とくに重要な判決を3件選び以下に掲げておきます。
- 最高裁1968年11月13日判決。…過払い金返還請求にかかわるもの。
1968年の最高裁判決は、高金利から消費者を保護するという利息制限法の立法趣旨に立ち返り、「元本完済後に超過利息の支払いが続けられた場合は、過払いとなった金銭は不当利得(民法第703条)として返還請求ができる」という、従来の考え方を180度転換する判決を下しました。この判決により、利息制限法第1条第2項の規定は実質的に空文化されました。 - 最高裁2004年2月20日判決。
みなし弁済と天引き利息にかかわるもの。この判決は「貸金業者との間の金銭貸借上の約定に基づく天引き利息については、貸金業法第43条第1項の適用はない」として天引き利息へのみなし弁済の適用を否定しました。
この判決は、これまで、みなし弁済成立の要件が緩やかに解釈する考え方を変更して「厳格に解釈すべし」とし、みなし弁済の成立を困難化したものとして評価されています。この判決ならびに前述した1968年の判決により利息制限法の第1条第2項は2006年の改正により削除されました。 - 最高裁2006年1月13日判決。
期限の利益喪失と利息制限法超過金利にかかわるもの。
最高裁は、金銭消費貸借契約において「債務者が元本または約定利息(注:利息制限法制限超過利息)の支払いを遅滞した場合、期限の利益を喪失する」旨の特約は、利息制限法第1条第1項の趣旨に反し無効であり、債務者が約定の元本と同法所定の上限金利以内の利息を支払いさえすれば、期限の利益を喪失することはない、
旨の判決を下しました。
多重債務者
多重債務者とは、異なった貸金業者から5件以上借金をし、その返済のためにさらに借金する者、と定義されています。借金により自家営業者は設備や自宅を取上げられ、家族が離散し、本人は自殺に追い込まれる、などの悲劇が数多く発生しました。
戦前の「ああ野麦峠」と「女工哀史」がこの悲劇を如実に物語っています。多重債務者をめぐる3K問題については前述したとおりです。多重債務者の数は、2003年がピークで230万人、2007年3月が171万人、その後次第に減少を続け、2012年3月には44万人となりました。
多重債務の発生原因はいろいろあるでしょう。生来の怠け者もいるでしょう。必死になって返済を試み、最後に生命保険金を残して自殺する人もたびたび報じられています。石川啄木の「働けど働けど猶わが暮らし楽にならざり、じっと手を見る」様は想像するだに痛ましさを感じます。
過払金返還請求訴訟
過払金とは、利息制限法の定める利率を超える小口の借り入れをした借主が、すでに借入金の返済が終わったのにかかわらず、返済を続けたため払いすぎた金銭のことを言います。
前述した最高裁の判決に力を得て、過払い金返還請求訴訟が全国的に提起されるようになりました。貸金業者は、この攻勢に負けて市場から姿を消しつつあります。
法改正、最高裁判決が消費者金融業界に与えた影響
業界の苛酷な取立てが社会問題化し、貸金業法、出資法の度重なる改正や最高裁の消費者保護を全面に押し出した判決により、貸金業者に対する締め付けが厳しくなり、サラ金業者の息の根を止めたように見えます。
彼らは自分で自分の首を絞めたようです。2006年以降、貸金業者の市場撤退が相次ぎ、また同業界に対する資金供給も大幅に減少、わが世の春を謳歌した大手サラ金業者はすべて消え去るか、メガバンクの傘下に入りました。
しかし、海千山千の業者が黙って引き下がっていくのでしょうか。彼らは今はひたすら辛抱と、地下に潜ってなりを潜めているようです。
しかし、総量規制に苦しみながら何とかして借金できないかとヤミ金業者の間を歩き回る人、借金せざるを得ない人は一朝一夕にして消え去ったわけではありません。
業界への締め付けが厳しくなり個人信用業界の収縮は免れない、また、多重債務者の利払い負担が減少すれば長期的には信用収縮以上に与信需要が退化するのではないか、という懸念もあるようです。
しかし、市場の需要は大きいのです。最近再び、地下のヤミ金業者が動き始め、クレジットカードのショッピング枠の即時現金化などの巧妙な手口が散見され始めました。彼らは近い将来何らかの形でふたたび息を吹き返すと、私は考えています。
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