公開日: : 最終更新日:2014/10/10
チャージバックの認知度
一般のクレジットカード利用者は、どの程度「チャージバック」というカード取引上のトラブルや不正行為に対し大きな歯止めとなっている制度を理解しているのでしょうか。
手元に、2013年7月19日に日本弁護士連合会が発表した「クレジットカード取引等の適正化実現のための割賦販売法の改正を求める意見書」という資料があります。
皆さんご存知のとおり、割販法は、部分的にせよ、クレジットカード取引を直接規制するわが国唯一の法律です。この意見書はチャージバックに関し大要次ぎの提案が掲げ、割販法の改正を求めています。
- 翌月一括決済のカード取引にかかわる苦情申し立てについて法令を追加・修正すること。
- カード会社が苦情発生時の加盟店調査義務を怠った場合について法令を改めること。
- 現在カード業界で行われているチャージバック制度について消費者の理解を深めるため、法令にチャージバック制度の内容を織り込むこと。
同趣旨の意見書・提案が各地方の弁護士会、あるいは法曹関係の専門家から発表されています。また、「消費者基本法」は事業者に対し、「消費者の苦情を適切に処理するための体制を整備すること」を義務付けています。
さらに、チャージバック制度をADR制度(裁判外紛争解決手続)と同一視する意見、「チャージバックの解説」と称する簡単な記事、あるいはチャージバック教室への招待記事もネット上に最近散見され始めており、チャージバックの認知度はかなり進んできているようです。
しかし、これらの提案または法的義務が現在充分に生かされているかどうか、私には疑問が残ります。カード業界は「チャージバック」制度が国際ブランドカード会社の専権事項であり、カード業界における専門的事項であるとして、積極的にカード会員にこの制度を説明する努力を払っていないのが実状ではないでしょうか。
本項では、以上の述べた観点から、できるだけ「チャージバック制度」を理解していただくため、様々な切り口からこの制度を説明するよう試みました。
チャージバックとは
チャージバック(略してCB)という言葉をお聞きになった方は多いと思います。英語のchargeとbackを組み合わせたカード業界用語です。 charge はいろいろな意味を持っていますが、その中で対価請求という意味があります。back は車の運転でよく使うback、後戻りの意味です。
チャージバックとは、「カード会員が不正取引等を理由にカード利用代金の支払に同意しない場合、カード発行会社(イシュア)が加盟店のカード取引を処理するカード会社(アクワイアラ)に対し支払を拒絶する行為」あるいは、「イシュアがアクワイアラに対し、一定のルールに従い、カード売上代金の請求を取り消すよう求める行為」、と定義されています。私は、この「一定のルール」をイシュア・アクワイアラ両者間の「喧嘩のルール」と呼んでいます。国際的なルールと日本独自の国内ルールとがあります。
チャージバック制度の誕生
VISAのチャージバック制度は1974年に始まりました。1958年は、Bank of America がクレジットカード業務の実験を開始し、BankAmericard第1号を発行してVISA International の第一歩を踏みだした年です。
それから約10年後の1969年、National Bank of Americard(NBI)が設立され、VISAカード業務が全米で本格化しました。チャージバック制度はカード業務創生時から稼動していましたが、その頃から、現在のようなチャージバックの骨格が出来上がっていたとは到底考えられません。
一般の消費者がカード取引の紛争に注目し始め、チャージバック制度が正式に登場したのが1989~90年ごろです。その頃から次第に骨格が固まり、肉付けされてきたと考えられます。わたしの手元に「チャージバック国内ルール」と題する古色蒼然たる綴りがありますが、その日付は1991年です。この小冊子もこの推測を裏付けるものではないでしょうか。
国際ルール
VISA, MasterCardなどの国際ブランドカード会社が定めているルールで、次の4つの原則が柱となっています。
-
当事者平等ならびにその権利義務尊重の原則。
-
手続重視の原則…紛争処理においては、定められた手続に従うこと。
-
処理期間厳守の原則…紛争処理は定められた期間内に行うこと。
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発生件数抑制の原則…あまり軽々しくCBに頼らないこと。
国内ルール
国内ルールは日本国内で当初大手銀行系カード会社数社が決めた独自のルールで、国際的には通用しません。
しかし、これはこれなりに差し障りなく動いているようですが、ボーダーレス化が進んでいる今日、その独立性がいつまで続くのか分かりません。国内CBルールは次ぎの3つの柱を重視しています。
- イシュア責任を重視、アクワイアラの立場を重視しています。
- ネゴベースによる解決を奨励。
- 紛争当事者における責任分担を奨励。
国際ルールと国内ルールの違い
主な相違点は次の4つです。
- 交渉形式、国際ルールは手続万能主義、国内ルールは「なあなあ」べースです。
- 紛争の形、国際ルールは固定化さている。国内ルールは「何でもござれ」式です。
- 加盟店倒産、国際ルールはCBはできますが国内ルールではできません。
- 通販、国際ルールは国内ルールに比べ手厚く規定しています。
チャージバックを行う人
カードの発行会社(イシュア)が独占的にチャージバックを行う権利を持っています。カード会員もこの権利を持っていると誤解されているようですが、それは間違いです。カード会員ができるのは苦情の申し立てです。
加盟店とチャージバックとの関係
カード会社と加盟店の間で締結された契約は「加盟店規約」と呼ばれています。この規約のなかに、チャージバックに関連した取決め(加盟店の義務)があります。
- 加盟店はチャーバックを受けたときは、取引の調査について全面的に協力しなければなりません。チャージバックルールでは原則として120日間以内での解決が望ましいとされています。
- 加盟店は、カード取引の総額の5~10%を供託金として銀行に積み立てねばなりません(これをデポジットと言います)。チャージバック紛争の解決次第ではこのデポジットは没収されることもあります。
- 加盟店は、チャージバックが発生した場合あるいは発生の可能性が高いと判断された場合、当該取引金額をカード会社に返還しなければなりません。
- カード業界には、「不良加盟店」あるいは「8% Merchant Watching System」と称される国際ブランドカード会社が定めたシステムがあります。いずれも加盟店側における不正行為を監視し、その事実があればその旨をメンバーであるカード会社に警告するシステムです。加盟店は、この監視システムにひっかからないよう、あらゆる不正取引対策を取らなければなりません。 この警告にひとたびリストアップされた加盟店は、自店で行われたカード取引についてチャージバックが発生すると、絶対的に不利な立場に追い込まれます。
チャージバック・リーズン
カード取引において発生する苦情・不正行為は千差万別で無数にあります。これらの苦情や事案ケースを類別し一定のグループに纏め上げたものがチャージバック・リーズンです。
その詳細は、VISA、MasterCard、AMEX, JCB のOperating Regulation(国際ブランドカードの基本規定)に明記されています。
VISAやMasterCardのリーズン数は、当初は50余ありましたが、その後大幅に整理されて、現在は、VISAが22、MasterCardが24あると伝えられています。
「伝えられる?」と言うのは、現在リーズンそのものが「対外秘」扱いとなっており、詳細が分からないからです。そこで、これらのリーズンを推測を交えて分類すると、次のとおりとなります。
なお、JCBはVISAと異なり限定的なリーズン制をとらず、苦情申し立ては「何でもござれ」のスタンスを取っているようです。この点は、MasterCardのリーズンコード4854(US only)と類似しています。
- 手続関連
- カードの有効性関連
- オーソリ関連
- T & E関連
- 通信販売関連
- ATM関連
- 不正取引関連
私の手元に1978年当時のVISA Operating Reguretionがあります。これによると当時は54のリーズンが挙げられていました。
当時のチャージバック制度はすべてペーパーと郵送に拠るものでしたので、いまこれを眺めると苦笑いがこみ上げてくるものもあります。参考までに、主なものを挙げておきましょう。
- 伝票またはマイクロフィルムの未着
- 伝票判読不明
- カード会員番号不一致
- オーソリ承認なし
- カード無効通知違反
- 分割売上
- 規格外の伝票持込
- 期限切れカード使用
- 伝票金額の変更・改ざん
- 二重請求
- NO SHOW(ホテルに予約していたのに現れない)
- ノーカード取引(偽造カードによる取引など)
- サイン漏れ
- 商品未着
- 送付先ミス
- 欠陥商品
- サービス提供なし(ATMで現金を引き出した事実がない)
- 不良加盟店取引の疑い
- フロアリミット違反
- 不正取引の疑い
当時全部で54あったリーズンは、取引のIT化に伴いほとんど姿を消し、異なった名称で現在は22~24個までに縮小・整理されています。
チャージバック・リーズンの改正
リーズンは、時代の流れ、とくにカード取引のIT化、カード取引形態の変化に応じて頻繁に見直されています。この見直し作業は1999年にスタートし、5年後の2004年に「International Re-Engineering Disputes(RED) Project」として本格的に稼動しています。
チャージバックの流れ
チャージバックはカード会員の苦情申し立てに基づき、イシュアがチャージバックを実行した時点から動き出します。その流れを示すと次のとおりとなります。
- カード会社、毎月のカード利用明細書をカード会員に送付。
- カード会員、その明細書の中のある取引について、身に覚えのない取引などを理由に苦情を申し立て利用代金の支払を拒否。
- イシュア、カード会員の申し立て、アクワイアラから送付を受けている取引資料
(Presentment)等を調べて、アクワイアラに対しチャージバックすることを決定。 - イシュア、アクワイアラに対しすべての取引データを送付するよう請求(Retrieval Request)。
- アクワイアラ、2日以内にデータを送付(Fulfilment)。
- イシュア、チャージバックを実行。紛争解決。
- 2003年4月までは、話し合いがつかないときはCBは2回行うことができるとされていましたが、5月に改定されて、現在は1回限りと改められました。
- 解決に不満の当事者(カード会社)はさらに事案を国際ブランドカード会社の専門家委員会に持ち込むことが認められています。
アービトレーション
チャージバックで紛争が解決されない場合、紛争当事者はこの事案をVISAやMasterCard の専門委員会に持ち込み、その裁定を仰ぎます。
この決定が紛争の最終解決となります(以前は、さらに高等裁判所的な機関がありましたが、現在はなくなりました)。
この委員会のメンバーは、世界的に大手とみなされているカード会社の専門家で構成されています。
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