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公開日: : 最終更新日:2019/07/19
カードバカ連載 カードあれこれ 発刊5周年 & 連載第20回記念 「キャッシュレスを凝縮すると?」 (前編)
半世紀近くクレレジットカード一筋に関わってきた“カードバカ”が、カードに関するあれこれを、独自の切り口で語ります。
カード研究家 小河俊紀
はじめに
皆さん、こんにちは。カード研究家の小河です。
昨年8月以降、長らく連載を休み、ご無沙汰をしておりました。たとえ少数でも、私の連載を楽しんでいただいていた愛読者の方には、心からお詫び申し上げます。
実は、昨年5月から、キャッシュレスに関する啓蒙書「キャッシュレス社会と通貨の未来」の執筆にかかりっきりになり、今年前半までプライベートなアクシデントも重なって多事極まりない一年でした。
上梓した本は、キャッシュレス専門家5人の共著で、発刊は民事法研究会のサポートをいただきました。
2月末の発刊以来、アマゾンやヤフー、楽天、セブンネットショッピングなど主要ネット書店のキャッシュレス分野売り上げベスト10に常時食い込んでいます。(下表は、アマゾン2019.05.17時点)
日々多少の変動はあるものの、ヤフーでは「売上順位」「おすすめ順位」ともにトップ3位以内を走る日が多く見受けられます。(図表は、2019.05.08時点)
「2,000円台以上の専門書は売れない」という出版業界常識の中で、結構健闘しているかもしれません。
ちなみに、本書で「個人の信用が未来の通貨になるだろう」という発刊趣旨を各執筆者の表現で多角的に述べていますが、私はあとがきで、「たとえば、Facebookのいいね!ボタンのようなイメージでもあり、価値単位としてはトークン、もしくはポイントが近いかもしれません」(P.235)と書きました。それは執筆完了した今年1月段階ではまだ遠い未来として描いたのですが、何とFacebook社は「暗号通貨”libra”を2020年に発行開始する」と今年6月18日に発表しました。世界24億人のユーザーを基盤に、VISAやPayPalなどメジャー企業群と連携する多彩さも相まって全世界に衝撃を与えています。
ITの世界では、もはや奇想天外なことが現実化するのにそれほど時間がかからない時代を迎えているのかもしれません。
できれば、当サイトの読者の皆様も本書をお買い求めいただき、「通貨は、世界的規模で過去から現在、そして未来に渡ってどのような変化を遂げていくのか」を、一過性でない長期的視点をもって一読いただけたら幸いです。もちろん、忌憚ない感想、ご意見・批判は大歓迎です。
キャッシュレス時代の幕開け
5月から元号も平成から令和へと変わり、日本全体が大きな節目を迎えました。
昭和が平成に改元した直後、東西緊張緩和やインターネット登場など世界的な激動が起こりましたが、今も人工知能の登場・実用化で時代が大きく変わり始めています。
また、各地で起こる出来事が前記Facebookやツイッター、You Tubeなどソーシャルネットワーク(SNS)等を通して瞬時に伝わり、世界がますます縮まり、伝達速度が速くなってきました。政治家や芸能人など著名人が頻繁にツイッターを発信し、社会的影響力を増しています。一般市民でもSNSに継続投稿することで世論を形成する機会が増え、情報発信源が大きく変わってきたのを感じるのは私だけでしょうか。
同時に、昨年あたりからかつてない大きな波動が起こり始めているのが、キャッシュレスです。皆様ご承知のとおり、今年2019年10月に予定されている消費税増税、来年夏に開催されるオリンピック「東京2020」が、その引き金です。
「カード破産」「カード番号漏洩による不正使用」など、カードへのバッシング報道が続いていた2014年当時が嘘のようです。
実は、その2014年春に「消費者への正しいカード知識啓蒙」について、知人を介して放送大学から非常勤講師委嘱の話をいただき、翌年4月から今年まで複数の専門家と連携して毎年面接授業を続けてきました。
さらに、奇しくもその直後に当サイト主宰者「ファベルカンパニー」からも同様の趣旨の専門サイト「クレジットカード徒然日記」創刊挨拶と連載への協力依頼を直接いただき、5月から執筆開始しました。いつの間にか、拙稿は今回でちょうど満5年20回目の節目を迎えています。僭越ながら、当初は日本銀行から転身してVISA,Masterの日本支社で活躍された末藤高義先生、そして今はもとカード専門誌社長でプリペイドカードはじめキャッシュレス全般に明るい中村敬一先生、という高度な専門家との競作に恵まれてきました。
また、執筆開始直後の2014年6月24日、キャッシュレス推進が盛り込まれた「日本再興戦略」が閣議決定され、キャッシュレスは史上初めて国策となりました。カードを語ることが逆に追い風となったのです。授業も連載も、5年も続けてこられたのは、幸運というしかありません。感謝・感謝です。
従いまして、今回号はご愛読いただいてきた読者への感謝を込めて、「創刊5周年&連載20回目 記念」として書いてみたいと思います。
新しい決済手法=QRコード決済
読者の皆様は、“カード”、“キャッシュレス”というと何を思い浮かべますか?
おそらく、「便利」、「お得」、「使い過ぎ」、「一枚一枚メリットがバラバラで、何枚も持ち歩く必要がある」、「どの店でどのカードが使えるのかよく分からない(特に、地方)。」などいろいろあるでしょう。
連載第一回目にも触れましたが、そこには日本独特の複雑な歴史・背景があるのです。
https://creditcard-diary.com/column/post-820/
ところが、その間隙を縫うように、昨年あたりからデンソーの開発技術であるQRコードを基本としたキャッシュレス決済が急速に勢いを増してきました。
もともとは中国が開発した決済手法ですが、スマホと連動すると、販売店側も消費者側も使い勝手が良いと、日本でも爆発的な勢いで普及が進んでいます。
(下表は、ICT総研調査)
実際に、ネット書店のキャッシュレス本売り上げランキングでも、スマホ・QRコード・ポイント関連書籍が上位を占めています。(下表は、上段が楽天ブックス、7下段がヨドバシ。いずれも2019.07.09時点)
QRコード決済試用の感想
昨年12月4日から、「100億円あげちゃうキャンペーン」と題したPayPayの大攻勢が始まり、私も便乗しました。仕事のネタ探しと個人的興味も相まって、翌日5日からPayPayをさっそく試用しました。
利用額の20%が無条件にポイント還元され、しかも紐づく先がヤフージャパンカードなら買い物代金全額キャッシュバックされる確率が上がるのが非常に魅力的でした。
たまたま近所のディスカウントストアが即座に取扱開始し、選択できる生活雑貨や家電が豊富なので、試しにアプリをインストールした次第です。
コンビニと違い、店のバーコードを読み取る静的方式のため、金額を自分で打ち込むなど少し面倒でしたが、少額利用ながら2回ほど全額キャッシュバックが当たり、それなりのお得感を満喫しました。
さすが、2000年代初頭から「Yahoo!BB」というインターネットブロードバンド回線を日本中に普及させたヤフー&ソフトバンク連合軍らしい強烈なデビューでした。
ところが、予定の翌年3月末を待たず、開始10日後の12月13日に、突如このキャンペーンは終了してしまいました。表向きは、「100億円に達した」という説明でしたが、実情は紐づけカードに数億円規模の第三者不正使用が発生した背景のようでした。
以降、PayPayはキャンペーンを控えめに再開しました。これを契機に、私はオリガミペイ、LINEペイ、楽天ペイ、最近は7ペイアプリを取り込んで適宜試用しています。悪用が怖いので、紐付け先は主にQR決済専用のネット銀行に設定しています。残高を必要最小限にすれば万一のことがあっても被害は少なく、しかもチャージの都度スマホに利用確認の案内メールが送られてくるので安心だからです。なお、7ペイは7月のリリース早々に同様の不正使用で6,000万円近い被害を受け、今なお(7月12日現在)チャージサービスを中断しています。その間、セブンイレブンでは「#3ペイ祭り」と称して商魂たくましいリカバリーキャンペーンが行われています。
便利な反面、規格がバラバラのQRコード決済の穴を突いた犯罪はこれからも起こるはずです。安心・安全な規格統一が急務ですね。
地元商工会議所セミナーに参加
という混乱もあり、当面はQR決済全般について公に語ることを避け、静観するつもりでした。
しかし、今年6月になって地元商工会議所から「会員向けキャッシュレスセミナー開催」の案内が届きました。私が会議所会員だからですが、内容がズバリQR決済の導入説明会であり、ペイペイふくめ10社もの事業者が一堂に会するという内容で、反射的に好奇心が湧きました。(写真は、当日のアジェンダ)
各社5~10分の持ち時間しかなく、内容自体にはそれほど期待していませんでしたが、消費税の増税を控え商工会議所がいよいよ本腰を上げたこと自体が、カードバカの私には非常に感動でした。
キャッシュレスの理想像を垣間見た!
終了後の感想を先に言いますと、最初に登壇したリクルートライフスタイルの「Air Pay」に圧倒されました。
TV CMではよく見かけていましたが、
サービス内容は理解していなかったので、すべてが新鮮で驚きでした。
消費者側ではなく、中小小売店、特に零細規模の小売店レジを徹底してサポートするスタンスが極めて明快で、しかも独創的でした。なぜなら、日本のキャッシュレス業界は消費者志向を強めているものの、私の知る限り零細な加盟店には優しくないからです。
その直感が正しいかどうか、市販されている関連書籍を5~6冊買い求め、比較研究しました。類似の事業者は他にもいますが、「Air Payは骨太で筋が通っている」という第一印象は揺るぎませんでした。
私は、世間に認知されていない世界について“直感的な連想”があると、納得がいくまで調べる主義です。例えば、2016年8月から「キャッシュレスと幸福の関係」について、6回に分けて1年間かけて追求し、手探りで連載したことがあります。日本では誰も語っていないテーマだからです。結果、在日デンマーク大使館の広報部にたどり着き、1時間もの電話取材を経て、幸福度世界トップクラスの同国の先進的なキャッシュレス事情と国策を確認できました。当連載の14回目(5)完結編にも書いたとおりです。https://creditcard-diary.com/column/post-2800/
この時の情報収集体験のおかげで、その後の放送大学での面接授業で自信をもってこのテーマを講義できましたし、実際に受講生の共感を得ました。さらに近刊「キャッシュレス社会と通貨の未来」の上梓にもつながりました。
先日の商工会議所セミナーを契機に、私は「中小規模小売店、飲食店という、最も裾野が広く、もっとも難度の高い分野に本腰で取り組もうとしているリクルートライフスタイル社のキャッシュレス戦略に着目しています。
なぜなら、日本の総事業者382万者のうち99.7%は中小企業だからです。(下表は、経済産業書2017年版中小企業白書から抜粋)
ちなみに、「経産省平成29年特定サービス産業実態調査」によれば、日本のカード加盟店数は630万店で、全企業数の1.67倍に相当します。
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabizi/result-2/h29.html
これは、各カード会社公表数字の重複があり、しかも大手企業ほど多い店舗数を含めた計算なので、実質的な取扱事業者数は不明です。
とりあえず、経産省が行った観光地でのカード決済普及状況調査が参考になります。
(下表は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「キャッシュレス決済の多様化の動向」2018.6.26から引用)。
観光地でさえ、合計取扱率は60%弱で、しかも食堂や喫茶店などの大衆的な飲食業は
わずか25%です。観光地ではない地方商店街は現金商売が基本で、実質的なカード取扱店は全体の半数に達していないと、私は推測しています。なぜでしょうか?
今年3月に公正取引委員会が発表した加盟・非加盟横串の調査したレポートが、その謎を解くひとつのカギとなりそうです。https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/mar/190313-2.pdf
既存加盟店の不満として、カード会社に支払っている手数料率関連がとりわけ多くを占めています
前記の経産省観光地調査では、未対応店の意識を深堀しています。
カードは、もともと“新しい送客システム”として地域金融機関が商店街に普及を進めてきた歴史があります。実際、カード取扱のステッカー表示は店の信用の証明であり、当時のカード客も比較的裕福な人が多かったので、新規顧客の動員と売り上げ貢献を果たした時代もありました。
しかし、20世紀末ころから少子高齢化やデフレの時代趨勢に伴い、商店街の地盤沈下が進み商店街のキャッシュレス促進は停滞・休眠・解除など空洞化し、取り残されてきました。
ITが飛躍的に進化した今こそ、物流と金流と人流の毛細血管にあたる地域の中小規模販売店が、キャッシュレスの本来的な経営支援能力を最新の状態で享受すべき時が来ているのではないでしょうか。
続編では、今秋から始まる「キャッシュレス・消費者還元事業」に照準を合わせながら中長期的にこの課題に挑戦するリクルートライフスタイル社を取材し、同社を題材に次世代のキャッシュレスのあり方について掘り下げてみたいと思います。
(後編に続く)
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