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公開日: : 最終更新日:2017/07/19
カードバカ連載 カードあれこれ 第15回「人の縁と、カード(第6回目の続編)」
半世紀近くクレレジットカード一筋に関わってきた“カードバカ”が、カードに関するあれこれを、独自の切り口で語ります。
カード研究家 小河俊紀
皆さん、こんにちは。カード研究家の小河です。
はじめに
おかげさまで、前回は、「キャッシュレス社会と、人の幸福5連作」が完結しました。前例のないテーマのために、悪戦苦闘の1年間でした。
あまりにのめり込み過ぎて、6月5日のアップ公開直後はセミの抜け殻のようになり、しばらく何をする気も起きないほど消耗しました。
市井の一介の老人の分際で、ほとんど誰からも期待されていない連載について、心身を削るような作業をしている自分の馬鹿さ加減が本当に嫌になり、これ限りで一切の寄稿から遠ざかる気持ちに傾斜していました。
今回は、その直後から起こった感動ドラマについて書きます。
思いがけないメール
アップから数日後、落ち込んだ気分を変えようと、例のロゴフ教授の近刊「現金の呪い」一冊だけ携え、私は東北山形方面にふらりと一人旅に出ました。
途中、何かに引き寄せられるように山寺立石寺に参詣しました。
「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」。
ここは、松尾芭蕉の有名な句が生まれた深山幽谷のお寺です。
確かに、たまに行き交う参詣客の声以外、物音が何ひとつしません。330年前にタイムスリップしたような気配がありました。
ところが、1050もの階段を2時間かけて登り、奥の院にたどり着くと、6月上旬というのに、実際にセミが鳴いておりました。
住職に聞くと、初夏に発生するハルゼミといい、実際に聞ける機会が少ない絶滅危惧種とか。
抜け殻ではなく、本物の貴重なセミでした!!
奥の細道のパワースポットで少し元気を回復したのですが、当地に3日間滞在しても執筆意欲はまったく湧いてきません。憔悴感が増すばかり。
ところが、人生とは不思議なものです。
山形からの帰途、電車内で某知人から思いがけないメールを受け取りました。連載の読後感でした。人目もはばからず、私は、その場ではらはらと落涙しました。
ご本人の了解をいただきましたので、以下、原文通り転載させていただきます。
小河様
お世話になります。
未踏峰の山を登頂されたと感じる読者は私だけではないと思います。大変にご苦労様でした。またお疲れ様でした。
「キャッシュレス社会が本当に人間にとって幸せなのか、また、そのような社会は
どんな社会なのか。」 日頃の思いを、当時小河様にお伝えしたことが思い出されます。これほどの労作になるとは思いもよりませんでしたが、小河様でなければ世には出なかった価値ある論文と高く評価させて頂きます。
表層的なキャッシュレス社会に関する作は、一部にありましたが、論理的、実証的、社会学的なアプローチで執筆されたものは無く、新たな扉を開くパスポートであると感じました。
まずは、原稿の完成を祝福させて頂きますと共に、今後の更なるご活躍をお祈り致します。
カード戦略研究所 中村
確かに、このテーマを書こうと決意したのが、ちょうど1年前の6月にいただいた中村様からのメールが引き金でした。これも、原文通り以下転載させていただきます。
- From: 中村 敬一
- Sent: Tuesday, June 21, 2016 12:00 PM
- To: 小河俊紀
- Subject: Re: カード戦略研究所中村です
小河様
ご無沙汰をしております。毎回の連載拝見しております。今回の原稿も大変に参考になりました。
また、「歴史から見たクレジット事業(注)」の引用を頂きありがとうございます。
真に成熟したキャッシュレス社会の実現に関しては法的、民度、歴史、社会構造、文化、価値観、経済、国際間などなどあらゆる面で、メリットとデメリットを比較検討する必要があると考えています。
キャッシュ社会のリスク、コスト偏重の分析比較では、どうも解決されないのではとも思います。
また欧米諸国との比較も、よく出されますが、キャッシュレスシェアがどの程度高まれば、日本社会の幸福度に貢献できるのか、キャッシュレス先進国の実態に関しても、さらに徹底した比較分析が必要と考えています。
小河様の更なる研究成果をご期待しております。
中村
(小河注):中村氏が企画・編集した近刊「クレジットカード事業の歴史から検証するコア業務とマネジメント」のこと。(カードウェーブ社刊)カード実務入門書として、秀逸。
若かりし頃に、好きな女性からもらったラブレターは別として、他人からもらった手紙・メールの類で、はらはらと落涙したことは私の過去の人生において皆無でした。
空虚で暗い心の奥底に、一条の光が差した思いがしました。
中村氏との出会い
中村さんとは、不思議なご縁があります。
今からちょうど10年前60歳の時、私は某ギフト卸商社G社の顧問をしていました。
当時の中村さんは、出版社であり、カードコンサルティング企業である「シーメディア」の社長をされていました。
この年2007年2月号から、私は同社の代表的定期出版物である「Card Wave」に「カードは現金に勝てるか?」と題する連載記事を書かせてもらっていました。
金融財政事情研究会の「月刊消費者信用」を“硬派なクレジット理論誌”とすれば、「Card Wave」はプリペイドカードや決済関連テクノロジーをふくむ“キャッシュレス全般の最新トレンドを網羅するリベラルな総合誌”でした。独特の存在感があります。
そこへの寄稿がご縁だったからでしょうか、中村さんが主宰し、座長を務めるICプリペイドカードプロジェクトへの参加を突然お誘い頂いたのが、この年の夏でした。
このプロジェクトは、プラスティック素材のプリペイドギフトカードに非接触ICチップを搭載するという当時最先端の構想がテーマとなっており、JCBや富士通、NEC,クオカード、凸版印刷など蒼々たる大手企業が参画していました。
中村さんの期待は、私の顧問先G社がその実証実験の舞台(リアル店舗)を提供することでした。
G社は、中堅の卸商社で消費者には無名の会社でしたから、巨額の投資負担無くしていきなり主役級の大抜擢という事態に、社長さんは大喜び。さっそく候補店の選別作業に入りました。
結果、この実証実験は、福島県に本社がある特約販売店㈱おおつかの「ギフトプラザ」で実施されることになり、私も数回会津若松の店舗に足を運びました。
当社は、日本最大のギフトショップで、福島だけでなく、宮城、栃木、山形、新潟にいたる5県21店舗で広域展開をしていました。
なぜ、福島に日本一のギフトショップが?
ところで、「なぜ、福島に日本一のギフトショップが?」と不思議に思われた読者が多いと思います。
なぜなら、日本では一般的に百貨店や量販店がギフト販売市場を抑えており、ギフトショップは冠婚葬祭需要に特化した零細な専門店が大半です 。
もちろん、福島にも中合百貨店という地元百貨店があります。
その近隣市場を福島の専門店「ギフトプラザ」が抑えている理由こそ、「江戸初期の名藩主 保科正之公の伝統を引き継ぐ真心の利他心」と現地で知り、深く納得したものです。
ですから、その4年後に起きた東日本大震災の衝撃は、私なりに特別のものでした。
なお、この実験の最終決着を見届ける前に私の顧問契約が終了しましたので、成果の詳細は不明ですが、G社はその後磁気カードをベースとしたサーバ管理型の自社ギフトカードの実用化にこぎつけ、事業モデルの転換を実現しました。
一方で非接触ICカードに関する実証実験のノウハウは、電子マネーブーム発展の一翼を担ったと聞いています。
私自身、還暦を過ぎ「知見と人脈を活かし、中小企業を支援する顧問業」という仕事に目覚めたのも、この時の体験が契機でした。以来、顧問業10年の歳月が流れました。
中村さんが語り部に
中村さんは、その後事情あって、表向き一線から身を引かれた形になっていますが、ご本人も、あらためて「カード戦略研究所」を発足させ、各種出版・コンサルを通して現在もカード業界に貢献されています。「Card Wave」も別の会社が複刊・継承しています。
日銀ご出身で、VISA,MASTERの日本法人幹部を務めあげられた末藤高義先生が、高齢のために執筆活動から引退された今、後継の語り部が不在のまま、この1年私ごときが孤軍奮闘して参りました。
「キャッシュレスと、人の幸福」という思いもかけないテーマを示唆いただき、私の拙稿を丹念に読み込み、助言いただいた中村さんこそ、次世代にキャッシュレスの意味を伝承していく語り部にふさわしいと確信します。考えている次元が深い方です。
先月、思い切って中村さんにこのサイトの連載執筆をお願いしましたら、即座に快諾いただけ、さっそく7月から「トンボの目 カードビジネスを俯瞰する」と題して執筆開始いただけました。複眼で見るカードビジネスです。
期待通り、初回から非常に面白い切り口です。皆様、今後ともご愛読のほどよろしくお願いいたします。
まとめ:この1ケ月の余話
つい先日10年来のお付き合いをしている某大手流通系カード会社の幹部のFさん、Tさんと会食した時の話題を少し補足します。
「小河さんの連載はとても面白い。ただし、古希迫るカードバカという絶滅危惧種なのだから、自分を大切に今後も元気に語り続けてほしい」とFさんから大いに励まされ(?)ました。
参加者全員大爆笑でした。
実際に化石になりそうなこの1ケ月でしたが、中村さんといい、Fさん・Tさんといい、私はこの連載サイトを通じて、なぜか凄い理解者と再会し、10年スパンでエポックメイキングな元気を頂きます。
末藤先生もそうでした。
さらにこの1ケ月間、他にも、もとの職場の上司、同僚、友人、知人からも真心の籠った力強いエールをいろいろいただきました。
また、このサイトの編集長は、私の発想に深い理解を示してくれ、応援のメッセージを3年間絶え間なく発信し続けてくれました。ありがたいことです。
一時期とは言え、「誰からも期待されていない連載」と一方的、自虐的に落ち込んだ自分を今は猛省している次第です。
ようやく、執筆再開の意欲が徐々に回復してきましたので、感謝の気持ちを込めながら、今回は肩の力を抜いて書きました。
次回以降は、時折見かける日常的なキャッシュレス風景を切り取って、私独自に語ってみたいと思います。
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