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公開日: : 最終更新日:2017/05/15
カードバカ連載 カードあれこれ 第14回―(3)「キャッシュレス社会と、人の幸福」
半世紀近くクレレジットカード一筋に関わってきた“カードバカ”が、カードに関するあれこれを、独自の切り口で語ります。
カード研究家 小河俊紀
皆さん、こんにちは。カード研究家の小河です。
前々回から、「キャッシュレス社会と人の幸福」という大きなテーマに取り組んでいます。
前回は、OECDの「世界幸福度ランキング」を引用しながら、キャッシュレス化率・幸福度が世界レベルで極めて低い日本の現実と、双方がともにトップクラスの北欧諸国を比較しながら、「その相関性は偶然ではないのではないか」という仮説を語りました。
アップロード直後、親しくお付き合いいただいている方から、下記のようなコメントを頂戴しました。
「一体、誰が得をして、誰が損をしているのでしょうか。現金第一主義体制を保持するそのコストがどのくらいなのか見当は付きませんが、ICT技術などを活用することによるキャッシュレス社会を実現することで、そのコスト削減分を幸福度の尺度の中のものに振り向けることができるようにならないかと期待するところです。それは日本の産業構造の転換にもつながるものでもありますので。」
簡潔な文章ではありますが、私が語りたい意図の核心を突くような指摘でした。
3回目の今回は、「日本は、いつから、なぜ今のような不幸な状態になったのか」を私なりの経験で考え、解決の糸口を探りたいと思います。
キャッシュレスを本当に理解すると、あなたの人生が便利で楽しく変わるかも!
トランプ大統領誕生の衝撃
11月9日、当初の大方の予想を覆し、アメリカの次期大統領にドナルド・トランプ氏が当選しました。イギリスのEU離脱と酷似した展開でした。
共通しているのは、「所得格差拡大不満層」の存在です。世界一強大な国でありながら、所得格差も年々拡大し、先進国でワースト1に入るアメリカ。貧困に苦しむ層がトランプ氏に構造改革を託したとみられます。(下表は、主要国のジニ係数=所得格差推移)
62人の富豪が世界経済を支配する現代
アメリカという国は、マイクロソフトのビル・ゲイツを筆頭に、資産兆円規模の大富豪が沢山いる国です。トップ20人のうち13人が米国人です。(下表)
世界経済に不穏な影が差し始めた今、国際貧困支援NGO「オックスファム」の報告が、各国に衝撃を与えている。
「世界のトップ62人の大富豪が、全人類の下位半分、すなわち36億人と同額の資産を持っている」、大ざっぱに言えば、1台の大型バスに収まる程度の金持ちが、世界の人口の半数を養える額、約180兆円を持っているということ。気の遠くなるような話だ。
※上記写真は、NHK「マネーワールド」から引用。
ちなみに、日本人では、上位100位内にファーストリテーリングの柳井正氏が57位(前年41位)、ソフトバンクの孫正義が82位に入っている程度で、世界的な大富豪は少ないようですが、貧困率ではアメリカに迫っています。
一方、実体経済を表すGDP(国内総生産)の伸びは世界的に鈍化しており、2000年ころから株とか債券といった金融資産が3倍以上に肥大しているのが実態です。 リーマンシショック以降も、その傾向は持続しています。
また、資本主義の過去250年間のレンジで見れば、1970代をピークに、主要国の経済成長率は低下し、ここ数年ではほとんど止まっています。
(下記写真も、NHK「マネーワールドから引用」。)
私は経済学者ではないので軽々なことは言えませんが、世界の金融バブルはリーマンショック以降も終わっていないように思えます。
世界に先駆けてバブルが崩壊した日本
1989年12月29日をピークとする日経平均株価暴落から、日本の金融・不動産バブルが崩壊し、日本は凋落を始めました。
(以下は、ウイキペディア辞典)
1989年の大納会(12月29日)に終値の最高値38,915円87銭を付けたのをピークに暴落に転じ、湾岸危機と原油高や公定歩合の急激な引き上げが起こった後の1990年10月1日には一時20,000円割れと、わずか9か月あまりの間に半値近い水準にまで暴落した。1993年末には、日本の株式価値総額は1989年末の株価の59%にまで減少した[14]。
平成生まれの若い世代の方はピンと来ないでしょうが、おそらく、バブルの絶頂期と崩壊を知るシニア世代の方には、バブル崩壊の意味が実感できます。実際、国家の経済規模を示すGDP(国内総生産)の成長も、このころから止まりました。
そして、2010年には、とうとう中国に世界2位の座を譲る事態となりました。
バブル崩壊以降、売り上げの低下した企業は人件費を割くようになり、若者の失業率が上がり始めました。大卒者の就職率が下がり始めました。
それまでは、「しっかり働けば、会社は儲かり、給料も上がり、いつかは出世する」ような楽観論が世の中を支配し、終身に亘って雇用が保証される安心感がありました。そして、無茶な高望みさえしなければ、働き口はどこにでもあるような空気があったのですが・・・
※下記は、ウイキペディア辞典から引用。
1999年以降(1990年代後半から2000年代前半、2000年のITバブル崩壊も含む)の景気が急速に悪化し、企業の倒産や人員削減による失業、新規採用の抑制による苛酷な就職難が発生し、本格的に実害をこうむった。
1999年以降(1997年の消費税5%増税とアジア通貨危機の影響による更なる不況の深刻化がきっかけ)は社会全体の雇用者賃金の減少や、それ以前よりもさらに非正規雇用社員が増加していった。
日経平均ピークの日に、人生の転換点を迎えた私
バブルがピークのころ、私は大手カード会社のCS(顧客満足度向上)の特命プロジェクト担当でした。
42歳で働き盛りでしたし、勤務先全体も伸び盛りで、入社時(1972年)は無名の中小企業だったのが、いつしか取扱高1兆円に達する有名大企業になり、感無量でした。自ら成長の一翼を担った誇りもありました。
反面、会社の成長とは逆に心の奥で漠然とした閉塞感に見舞われるようになり、「自分の進むべき道は他にないだろうか」と思い悩む日々が続きました。昔から40歳は初老と呼ばれますが、私も人生の折り返し点を迎えていたのでしょう。
そんな1989年の晩夏、あるヘッドハンティング会社経由で某財閥系不動産会社から「不動産金融子会社の常勤役員にならないか」という誘いが突然入りました。
体験したことのない不動産業界で戸惑いましたが、ブランドの知名度だけでなく、役職と報酬が跳ね上がるのが大きな魅力でした。
2ケ月あまり悶々と迷いました。その間、当の不動産会社役員から私に食事のお誘いが数回あり、誠実で熱心なオファーを直接いただきました。その熱意に惹かれ、結局10 月半ばに思い切って退職届を提出。
転職は社会的脱落という常識が普通だった当時ですから、当然のことながら上司・同僚や家族・親戚から強い制止を受けました。
それを振り切って大手カード会社を辞めたのが、それから1ヶ月半後の1989年12月末。後悔はしていませんが、かなり無鉄砲なことをしたものです。
しかし、別れを惜しんで、12月は上司・同僚達から毎日のように送別会を設けてもらいました。今から思えば、温かい社風に感謝感謝です。
ちなみに、奇しくも最終出勤日(実質退職日)にあたる12月29日の大納会で、日経平均株価が史上空前の38,916円をつけ、年明けから空前の大暴落が始まったのです。日本の大転換=バブル崩壊の序曲でした。
当時は、私はもちろん、日本の誰もがその長期的意味を理解していませんでした。
札束が飛び交う衝撃的な場面
明けて翌年1月から、私は財閥系不動産会社の本社幹部として再就職しました。
株価の暴落をよそに、不動産業界はバブル健在で、毎日の朝礼で行われる表彰式に驚きました。
何と、封筒に入った数十万円単位の札束が、全社員の目前で営業成績優秀者へ褒賞として次々と授与されたからです。
正直、カード会社勤務中は、現金は交通費くらいの小口現金しか職場で見かけなかったので、ビックリの連続でした。
私がこの会社に勤めた期間は夏までのわずか半年でした。新たに、大手楽器メーカーから同社カード事業への参画をお誘いいただいたからです。
そのあたりの経緯は今回省略しますが、私がその半年間で得た教訓は、「自分はあくまでカード屋である。」という自己再発見でした。18年間従事したカード業界が、いつしか自分のDNAになっていたようです。
ちなみに、不動産バブルは、その直後から崩壊を始めました。
地価は、1991年秋頃(東京、大阪の大都市圏では1990年秋頃から、地方圏では1992年、公示価格ではさらに1年遅れの1993年頃に[15]、路線価も1992年初頭をピークに下落していった。
全国の地価は1992年に入ってから下落し始め、1993年には全国商業地平均で前年比10%以上の値下がりを記録した[18]。(中略)それまでの好景気は株や土地への異常な投機熱によるもので、実体を伴わないもの、すなわちバブルであったことが明らかになり、振り返って「バブル景気」と呼ばれるようになった。(ウイキペディア辞典から引用)
日本は、なぜ幸福度が低いのか?低賃金労働と所得格差
労働者派遣法とその影響
バブル崩壊後の1996年の労働者派遣法改正により26業種の労働者派遣が認可、次いで1998年の派遣適用対象業務が事実上自由化(一部を除く)は、企業側の雇用価値観を変化させ、終身雇用者数の減少と派遣雇用者数の増加につながった。
経済成長期に慣習であった一家の男性を稼ぎ頭とした日本型終身雇用制度は、その美点とされた世帯の経済保障が崩れ、不安定な収入を経済事由とした出生率の低下、それまで減少傾向であった生活保護費の増加や年金の未払いなど国の社会保障制度にも問題が波及し、2000年以降の国の政策にも影響を与えた。
また、経済的に消費者がより安価なものを求めた結果、失われた20年と揶揄されるデフレーション長期化の一因となり、バブル崩壊後の名目経済成長において足枷となった。
これは国内の企業業績にも影響を与え、終身雇用から派遣業者委託雇用制度に移行し、人件費軽減の恩恵を受けた多くの企業も業績低迷に苦しめられた。
終身雇用者数の減少と派遣雇用者数の増加は、2000年以降の「格差社会」といった言葉が生れる土壌ともなったと指摘され、経済的影響が顕著とされる自殺者総数は、自殺者総数は、1998年以降から厚生労働省の人口動態統計において高水準で推移している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%82%E8%BA%AB%E9%9B%87%E7%94%A8
「バブルが崩壊し、法律改正があってから、終身雇用が崩れ、低賃金労働と所得格差を生み出し、日本人の幸福度が低下してきた」との趣旨のウイキペディア辞典の解説に、まったく同感します。
低賃金と個人消費低迷の悪循環
バブル崩壊以降、日本では未曽有のデフレが20年以上にわたって継続しています。日銀の異次元金融緩和政策にも関わらず、日本経済は世界の荒波に翻弄され、デフレから未だに脱却できません。(下表は、「世界経済のネタ帳」。)
加えて、立場が不安定な非正規雇用者がこの頃から増え始め、4割に迫っています。
※引用元「社会実情データ図録」
戦後、アメリカのすべてを模して発展してきた日本。
確かに、テレビや自動車の普及など、昭和40~50年代の日本は目覚ましく豊かになりました。当時、「日本は格差がない総中流社会」と称賛されていました。
ところが、バブル崩壊後、欧米式の能力主義名目での食い合いがあらゆる場面で過激化し、歯止めがかからなくなってきた気がします。
皮肉にも、所得格差でもアメリカ並みになりました。ひとり親世帯では、アメリカを超え、何とOECD加盟国中で貧困率ワースト1です。
企業の利益を守る人件費の削減が、回りまわって消費不振・売り上げ低迷を招く悪循環となり、今の日本社会全体を形成しています。
経済的理由からの晩婚化・少子化も加速しています。
それが、年金財源を細らせ、若者はますます勤労意欲を喪失させています。シニア層は老後の不安におびえています。
老若男女を問わず、生活不安のイライラを他の弱者にぶつけるような理不尽な凶悪犯罪が近年頻発するようになった、と思うのは私だけでしょうか?
大人の鏡たる子供の世界ではイジメが横行しています。仏教でいう「修羅界」そのものです。
では、北欧並みのキャッシュレス社会を目指せば、日本の所得格差が縮小し、幸福度が増すのでしょうか?かなり唐突でカードバカ的提言は、次回に書いてみます。
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