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公開日: : 最終更新日:2016/10/20
カードバカ連載 カードあれこれ 第14回―(2)「キャッシュレス社会と、人の幸福」
半世紀近くクレレジットカード一筋に関わってきた“カードバカ”が、カードに関するあれこれを、独自の切り口で語ります。
カード研究家 小河俊紀
皆さん、こんにちは。カード研究家の小河です。
前回から、「キャッシュレス社会と人の幸福」という大きなテーマに取り組んでいます。
いろいろそのヒントを模索し、考えてきました。正直、もともと悪い頭が壊れそうです(苦笑)。
キャッシュレスという歴史の浅い経済概念と、幸福という人類永遠の理念的概念が、とても飛躍していて結びつきにくいからです。
まして、カード嫌いの方には「とんでもない話題」でしょう。
しかし、モノであれ、サービスであれ、芸術であれ、人の幸福に関係ないものはありません。もし幸福貢献度がなければ、いつかは滅びます。なぜなら、人は幸福を増進するものを本能的に選び続ける生き物だからです。
では、キャッシュレスが加速すると、人の幸福に結びつくのでしょうか。
本当に難しいテーマですし、私の知る限り具体的な論文を読んだことがありません。それでも、自分なりに先行事例を探し、そのヒントを探すことはできるはずです。
今回も、誰もが書いたことのない切り口で迫ってみようと思います。キャッシュレスを本当に理解すると、あなたの人生が便利で楽しく変わるかも!
幸福度ランキング
OECDが、毎年恒例の「世界幸福度ランキング2016」を発表しました。
ちなみに、ランキングに加味されるのは7つの項目。
下表が、そのベスト20です。
- 国民1人あたりの実質GDP
- 健康寿命
- 社会保障
- 人生選択の自由度
- 汚職度
- 寛容度
- 政治的信頼度
良い暮らしと幸福に関するOECDの解説が下記です。
実際、幸福度ランキングには、デンマークはじめ、アイスランド、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンといった北欧諸国が数多く登場しています。
経済大国の中では米国が13位、ドイツが16位に入ったが、英国は23位にとどまっています。
日本は、なんと157国中53位で、昨年の46位からさらに下がっています。とても、世界第3位の経済大国と思えない“惨状”です。
項目別では、日本は2)「健康寿命」だけが、世界一。あとの4)「人生選択の自由度」、6)社会の寛容さ」、7)政治的信頼性が、上位53ケ国の中では、日本が最低です。
1位のデンマークの国民一人当たりのGDPは、日本の1.6倍52,114ドルもあり、非常に豊かです。そのことが、すべてに影響してくるのか、下記のような豊かさが起きています。
①週37時間労働が法律で決まっている
②6週間の有給休暇をとる制度がある
③20~60代の女性の社会進出率が80%以上
④保育施設の利用料の3分の2をまかなってくれる
⑤定年制がない
⑥教育費は大学まで無料
⑦18歳以上の学制には給付金
⑧医療費は無料
⑨介護費用も無料
⑩地方議員の給料は安くボランティア
税金も高いけれど、教育費、医療費の無償化ふくめ無駄なく公平に国民に還元されています。これだけ保障が充実していると、老後のお金の不安もほとんどなく、お金を貯め込んでおく理由がありません。
自分の楽しみにお金を使うだけだそうです。
さらに、伝統的にとてもクリーンな政治が行われており、地方議員などはボランティアに近い“公僕”のため、汚職は少ないとか。
不安率ランキング
幸福度と対極指標のひとつが、「治安不安率」です。少し古い資料ですが、これもOECDの調査資料に「不安率ランキング」があります。
総じて、北欧諸国は不安率が低く、北欧より犯罪率の低い日本はなぜか不安率上位です。不思議です。
貧困率ランキング
経済的な幸福度の指標に、「貧困率」というものがあります。貧困率とは、貧困な人が社会に占める割合であり、国家経済規模と関係なく国民の所得格差が大きいことを表します。
下図は、これもOECDが発表した世界の貧困率ランキングです。
日本は、ワースト2位のアメリカまでではないにしても、ワースト五位の15.3%に達し、主要国平均の10.4%を大きく超えているようです。
貧困率の低い北欧諸国と比べ、何と3~4倍にも達しています。
私の若かったころ、「日本は貧富の差が少ない素晴らしい国」と言われていましたが、いつの間にどうしてこのような状況に陥ってしまったのでしょうか、。
引用先:https://finalrich.com/sos/sos-economy-world-oecd.html
北欧のキャッシュレス化率
ちなみに、北欧諸国は、極度に発達したキャッシュレス大国です。
(以下は、ダイヤモンドオンライン 2016.01.25から引用)
- 小売店にとって現金管理のコスト負担は重い、
- 銀行は警備コストから解放される上に、電子決済の手数料が入る、
- 世界最速でキャッシュレス化を実現しつつデジタル革命の最先端を走っていくことは今後の経済成長にとって重要。
例えば、デンマークの首都コペンハーゲンでは、ホットドッグの屋台ですら電子決済が大半である。
昨年5月にデンマークの財務省は、食料品店、病院、郵便局などを除く一般の小売店は、2016年1月から現金での支払いを拒絶できるようにしてはどうかと提案した。(中略)
デンマーク中央銀行は、紙幣とコインの製造を今年で停止し、必要に応じて外注する予定だ。30年にはデンマークから現金が消えるとの予想も聞かれる。(中略)
日本銀行は北欧とは逆に、マネタリーベース(現金+準備預金)を増やすと経済が活性化する、という考えで量的・質的緩和策を実施している。
昨年11月、スウェーデンの現金流通高GDP比はわずか1.8%だったが、日本は20%もあった。しかし、その大半は使われずに退蔵されている。
国際通貨基金(IMF)は今年の経済成長率について、スウェーデンは3%、日本は1%と予想している。おそらく北欧の人々は、マネタリーベース増加で経済が成長するといわれてもピンとこないだろう。
情報通信の安全性と背景
加えて、デンマークは情報通信の安全性においても、世界一です。
キャッシュレスの普及に不可欠な情報通信の安全性でも、強固なインフラを築いているようです。興味深い事実です。
少し古いですが、総務省の資料では、いろいろな要素で日本を圧倒しています。
(下図、引用元は情報通信白書)
幸福度とキャッシュレスの関係
デンマークだけでなく、スウェーデンやノルウェー、フィンランド、アイスランドなどの北欧諸国は幸福度が高い上、キャッシュレス化率も限りなく100%に近付いており、それを支える情報セキュリティの高さも際立っています(例えば、スウェーデンの現金決済率は3%、ノルウェーは6%)。
幸福度と、キャッシュレス化率と、情報セキュリティ度の高さが北欧諸国に共通しているのは、偶然でしょうか。何かの因果関係があるとはいえませんか?
もちろん、「キャッシュレスが進めば幸福度が自動的に高まる」という単純な理屈は成り立たないとは思います。
幸福度を押し上げるのがキャッシュレスと考える方が自然かもしれません。いずれにしても、注目すべき現実です。
「キャッシュレスと幸福はどういう関係あるのか」について、次回はもっと掘り下げてみたいと考えます。
ちなみに、実際にそれらの国を実際に旅し、住んでみたドイツ人女性マイケ・ファンデン・ボーグが書いた書籍「世界幸福度ランキング上位13カ国を旅してわかったこと」(集英社、2016年7月31日刊)が大変参考になりました。
EUの中核的存在なのに幸福度が高くないドイツから見た視点が、どこかで日本と似ているのです。
次号をご期待ください。
なお、このテーマについて持論・意見をお持ちの読者がいらっしゃったら、是非私までメールください。歓迎します。
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