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公開日: : 最終更新日:2015/12/08

カードバカ連載 カードあれこれ 第9回 「蕎麦打ちと放送大学と、カード」

半世紀近くクレレジットカード一筋に関わってきた“カードバカ”が、カードに関するあれこれを、独自の切り口で語ります。

カード研究家 小河俊紀

皆さん、こんにちは。カード研究家の小河です。前回は、「企業間商取引でのキャッシュレス」について書きました。

長年追求してきたテーマのため、かなり長文になり、読者の皆様もお疲れだったでしょう。そこで、今回は肩の力を抜いて、最近の体験をエッセイ風に書いてみます。

トラウマの克服

今年に入って、青春時代の挫折とトラウマを乗り越える大きな体験が、2月と4月の2回も続きました。

一つは、「蕎麦打ち3段資格に挑戦し、合格したこと」です。二つ目は、「放送大学非常勤講師として一般市民に講義を行ったこと」です。

「青春時代の挫折とトラウマとは何? 蕎麦打ちと放送大学が、カードとどう繋(つな)がるの?」と思われたことでしょう。

青春の挫折・トラウマとは?

私は生来のあがり症で、大学受験での失敗はじめ、スポーツ競技やギャンブルで滅多に勝てないなど、「一発勝負で実力を発揮できない劣等感」に、長い間さいなまれてきました。

それが、2月下旬の蕎麦打ち昇段試験では、なぜか腹が据わり、猛者ぞろいの受験者、大勢の審査員・ギャラリーの前で堂々と実技でき、合格。

あげく、長く苦しんでいた「一発勝負に弱い」というトラウマを、すっかり克服できました。
(上は、仲間の受験風景。)

一発勝負に弱い自分を克服できたとすれば、おそらく、所属する道場館長始め諸先輩の薫陶と、仲間たちとの切磋琢磨(せっさたくま)、そして道場の 練習心得(右)を守った修練のおかげというしかありません。

ギリギリの修練が、自信と余裕を生んだのでしょう。

自分で言うのも変ですが、中学校時代までの私は“神童”と呼ばれ、ろくに勉強しなくても試験の成績はほとんど学年トップでした。

ために、学問を甘く見る癖が身につき、そのツケが廻ってきたのは、地元でも一番の進学校に入学してからでした。

その県立高校は、県内各地から私以上の秀才が集まっており、しかも猛勉強が身についているので、当然のことながら地道な勉強をしない私は、どんどん落ちこぼれになっていきました。

結果、志望コースの国立大学医学部を第一志望・二志望ともすべて落第。

東京で一浪し、コースを文系に変更して万全を期しました。ところが、翌年入試直前の模試で「合格確実」と診断が出た第一志望の旧帝大系法学部に、またも落第。

故郷の国立大学二期校経済学部と、横浜の公立大学商学部には辛うじて合格できましたが、敗北感に打ちのめされました(注)。地に足の着かない学力と、一発勝負に弱い性格のなせる業でした。

実兄二人が同じ高校経由で旧帝大に合格し、それぞれ一流銀行・官庁に就職した評判の秀才でしたので、地元の大学入学後も劣等感に囚(とら)われ続けた学生時代でした。

折しも、東京大学で火を噴いた学園紛争が地方にも波及し、当学も断続的に構内封鎖と休講の事態に。

4年生になって自主留年し、関西の大学院進学を目指しました。大学で教鞭を取る夢に挑むためでした。ところが、頼みとするゼミの先生が途中で転出し、あっさり挫折。

勉学に対する挫折感(トラウマ)が再浮上した、ほろ苦~い思い出です。

もっとも、在籍した大学は温かい学風でしたし、親元から通う気楽さで、空手や能楽などの趣味に没頭したり、親友と夜明けまで酒を酌み交わし人生論を語ったり、今から振り返れば懐かしさと感謝でいっぱいです。

ちなみに、同学は今では医学部、大学院も抱える立派な総合大学に発展しています。

カード業界への就職から、放送大学非常勤講師への長い道のり

屈折の多い青春時代を経て、深い知識も意志もなく就職したのがカード会社です。銀行員だった実兄の勧めに素直に従ったのですが、正直、入社して数年間はいつ辞めるか葛藤が続きました。

入社した1970年代初期のカード業界は、発足10年余の歴史しかなく、地方ではほとんど無名でした。本拠地東京でも、最大手のJCBでさえ「怪しい金融ブローカー」程度に誤解する人が結構いたのです。

実際、入社した1972年当時の市場規模は、銀行系カード会社6社(旧日本ダイナースクラブ、JCB、DCカード、旧住友クレジットサービス、旧ミリオンカードサービス、UCカード)全部を足しても、カード発行枚数はわずか380万枚、カード取扱高は1,960億円と、現在に比べ二桁低いレベルでした。

(JCB社史「日本のクレジットカード社会の軌跡」を参照)

30歳近くになり、新しい時代を開く楽しさにようやく目覚め始めたころ、母校の経済学部長から「面白くなりそうな業界だね」と注目いただき、OB会報誌(1979年5月号)に「クレジットカードの現状」と題する寄稿をしたことも あります。

学部長の予想通り、翌1980年代に入って、カード業界全体にセカンドギアが入り、爆発的な発展を始めました。

例えば、どこでも使える汎用ギフトカードやカード利用ポイント制度の開発、カード利用承認を業界共用コンピューターが行うCATシステム、国内外共通で使える国際カードの発行、会員獲得チャネルの多様化など、目まぐるしい展開を見せ始めました。

30代の働き盛りにその現場に立ち会えた幸運もあって、仕事場が変わっても43年間カードに関わり続け、とうとう私の天職になっていました。

昨春、その専門性を千葉大学の先生から高く評価いただき、放送大学の非常勤講師に推薦された経緯です。教鞭歴(きょうべんれき)のない実務家には珍しいことのようです。

一旦挫折した「大学の教壇に立ってみたい」という夢が、半世紀近い地道な業務経験を経て図らずも実現したのです。開講は、今年4月下旬でした。

放送大学の素晴らしさ

放送大学というと、テレビ放送を連想しますが、実は、通信教育以外に、今回講義を実施した神奈川学習ゼンターのような面接授業施設が全国各地57ケ所に分布しています。

10代から90代の一般市民(男女)85,000名が学ぶリアル&バーチャルの壮大な公共大学なのです。所定の単位を取得すれば、正規の大学卒業資格(学士号)、大学院卒業資格(修士号)も獲得できます。

主婦やシニアの方も多く、おそらく諸事情があって若いころに勉学の機会を逃したか、それまで自分が知らなかった領域を学びなおしたい方が多いと想像されます。

好評だった講義

放送大学での講義は、「現金社会からの脱皮」と題し、「2020年東京オリンピックまでに、日本は国策どおり“世界でもっともクレジトカードが使いやすい安心・安全な国”になれるか?」という大きなテーマでした。

非常勤講師の話をいただいたのが、昨年3月。カード振興策が国策となる閣議決定されたのがその3ケ月後の6月。

当初は予想もしていませんでしたが、早い段階で時代の空気を読み、異例の講義を推薦いただいた千葉大学の先生と、採用いただいた放送大学神奈川学習センター所長の慧眼(けいがん)に、敬服するばかりです。(国策の骨子は、本連載の5回目参照ください)

その後、大手カード会社役員、指定信用情報機関アドバイザー、消費生活アドバイザー3名の著名な専門家も快く趣旨に賛同いただけ、連携講義の見込みが立ちました。

国策の概要、カード業界の近況、歴史、信用情報の意味、カードの基礎知識、関連法制、未来展望、パネルディスカッションの8部構成とし、担当割を7月に決定。

経験豊かな専門家ばかりですので、「消費者目線で分り易く話すこと」だけをルールと定め、講義資料は自由裁量としました。

開講直前に、消費生活アドバイザーの方が体調を崩すという思わぬ事態が発生しましたが、その担当テーマを担える頼もしい専門家(もと日本クレジット協会理事)が代役に立っていただき、事なきを得ました。

私はお世話役でもあり、サポート兼ねて2日間12時間の講義すべてに立ち会いました。どなたもカード業界でトップクラスの専門家だけあって、非常に説得力のある講義内容。

幸い、大きなアクシデントも起こらず、自分の講義も無事完遂できました。

カードをテーマに、業界人が一般市民に横断的に語りかける講義は双方共に前例がなく、正に手探りの二日間でしたが、2倍の応募者から選ばれた40名の受講生は真剣で、最後に全員から提出してもらった履修レポートも、驚くほどしっかりしていました。

中には、講義終了後に私に歩み寄り、カードに関する質問攻めをしてきた若者もいて、講師冥利というしかありません。

この連載サイトもそうですが、カードに関する正しい普及啓蒙がいかに大切か、そういう確信が増した貴重な体験だったと思います

ちなみに、後日私の講義風景写真を見て、「まるで、熟練した大学教授みたい」と評していただく方がいて、恐縮  しつつ不思議な感慨です。おそらく、蕎麦打ち3段挑戦の体験が活きたのでしょう。

集中力が絶対必要な蕎麦打ち修行

落語の三題噺(さんだいばなし)」みたいですが、蕎麦打ち段位について、若干補足します。

蕎麦打ちの段位は、「一般社団法人 全麺協」という団体が制定する全国共通資格で、蕎麦打ちを生業としていない、いわゆる素人に授与されるものです。

段位は、初段から5段まであり、3段からケタ違いに技が難しくなります。将棋でも、4段と3段は天地(プロ:アマ)の違いがあるといわれますが、蕎麦打ちの3段と2段は数十段も違うとさえ言われ、3段以上は正にプロ並みです。

それが分っていながら、3段認定試験直前まで私はノンビリ練習していました。正直、タカをくくっていたのです。

職場に近い道場支部の責任者からその勘違いを指摘され、心を入れ替えて、日本トップクラスと評される埼玉県杉戸町小川道場本部の門を叩いたのが、試験日まで2ケ月しか残っていない昨年12月末のこと。

それから、年末年始をはさみ、館長はじめ、先輩諸氏から猛特訓を受けました。仕事の合間を縫って二日に一日の頻度で、1.5キロの蕎麦を一日平均4回、通算120回打ち続けました。

蕎麦には約750グラム弱の加水をしますので、重量に換算して1回2.3キロとして2ケ月通算で300キロ前後。試技制限時間は一回あたり40分ですので、通算すると正味80時間打ったことになります。

指はひび割れ、身体のアチコチが筋肉痛となるなど、筆舌に尽くしがたい剣豪修行のような修練でした。都度、心が折れそうでした。

そして、毎晩のように試験に落第する夢を見、夜中に目が覚める連続。若いころの大学受験時そっくりでした。

特に難しいのが、最初に行う「水回(みずまわ)し」(右)という工程で、加水が僅かでも多いと麺がグチャグチャになり、少ないとバサバサになります。

また、制限時間を意識するあまり、無理な圧力の延しで麺体が引きちぎれたり、どの工程も思うようにいかないことばかり。

気持ちまで切れたらおしまいですから、集中力と忍耐力がいつしか身につきました。焦らない方が早いのです。

すべては、繋(つな)がる

その苦しい体験が、直後の放送大学講義にも教訓となりました。講義内容については、1年にわたる入念な準備をしてきましたので、「当日はあわてず、堂々と語れば良い」と腹を据えたのです。

長年、人知れず劣等感を引きずってきた私ですが、この歳でようやく何かをつかんだ気がします。

「嫌な苦労も、めげずに錬れば、蕎麦と同じでおいしく繋がる。」

これで、三題噺がまとまりました。

※今回の講義に際し、入居している埼玉県東部ふれあいキューブ 創業支援ルーム事務局から数々の助言をいただきました。また、昨年6月来、当サイト編集長から消費者目線を鍛える連載の場を継続的に提供いただいてきました。あらためて、厚くお礼申し上げます。




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