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公開日: : 最終更新日:2015/12/08
カードバカ連載 カードあれこれ 第4回 後編「マイナンバーとカード」
私は、カードが本業ですから、マイナンバー構想に関する下記の日本経済新聞記事(2014年5月24日付)に注目しています。
簡単な記事なので、詳細は分かりません。ただ、運用条件次第では基本的に大賛成です。この連載で何度も書きましたが、近年になってノンバンクの金融商品(リボ、ローン、分割払い)に、「総量規制」という法的制約がかかり、カード会社は初期与信だけでなく途上与信においても、消費者(カード会員)の収入と借入総額のバランスを常にコントロールする義務を負っています。
趣旨は分りますが、民間企業に過ぎないカード会社が、定常的に本人の最新の収入状況を正確に把握することは、ほとんど不可能です。
消費者の利便性を考慮すると、常時源泉徴収票は請求できませんし、その源泉徴収票といえども、前年の実績に過ぎません。労働の流動性が激しい今の時代には、意味が薄れた収入証明ではないでしょうか。
実は、(前記のとおり)不完全ながらも国民の毎月の収入、および勤務先等の属性を一番 正確に把握する権限をもっているのは、当の関係省庁なのです。
ですから、分かり易い比喩をすれば、世界でも例を見ない総量規制とは、「最新式のCT・MRIを与えず、旧式のレントゲン機器だけで正確な診断を医師に強要するようなもの 」で、かなり無茶な法律です。
一元的処理センターの必要性(私案)
下図は、マイナンバーをキーに、国家が認定した第三者機関が、勤労者(消費者)個別の給与、税金、社会保険料、口座情報、変更情報を一元的に収集・収納・管理する概念私案です(私案)。所轄官公庁は、月次の最新情報に基づいて課税していく想定です。
あわせて、国家と被雇用者(消費者)の指定を受けたクレジットカード会社が、本人の同意のもと第三者機関から与信と決済に必要な個人情報(最新の住所、勤務先、扶養家族、所得額、決済口座残高等)を月次に開示請求するイメージでもあります。
これで、クレジット利用の正確なモニタリングが可能になります。
ちなみに、雇用企業側では月次の給与計算と天引きは、経営管理上ほとんどの企業がシステム的に内部処理していますので、類型化されたパターンであれば、月次で個別給与情報を第三者機関に提出することはそれほど困難ではなく、むしろ、合理化される業務も多いはずです。
上図は、あくまでも仮説です。それでも、このような着想にいたった理由は、「第三者的な共同機関が、一元的な処理をすれば、そうでない場合に比べて、格段に管理コストが下がり、情報精度が上がる。結果的に、消費者に恩恵が回る」ことをカード業界で実践的に学んだからです。
一番身近な例では、カード利用照会システムです。どのカードであれ、加盟店でカードを提示すると、利用データは店頭レジの端末から専用回線を通って、CAFIS,CARDNETなど一元的決済センターを経由し、コンピューターで自動処理しています。
今では数秒程度にリスポンスが短縮され、現金精算より早いほどです。
(経済産業省「平成21年度クレジット事業等環境調査」資料)
このセンター処理システム(CAT共同利用システム)は、30年前の1984年、世界に先駆けて日本のカード業界が大同団結し構築したものです。
それまでは、レジ裏で「無効通知」という手配リストと照合し、一定金額以上はカード発行会社に直接電話し、承認を得てからインプリンターという道具で手処理していたので、お客様を長く待たせていました。
CAT共同利用システムの稼動によって、クレジットカードの利便性と安全性が飛躍的に向上したのです。
もう一例は、多重債務防止のための管理センター「個人信用情報機関」の存在です。
1980年ころまで、個人の信用履歴は金融機関、カード会社、信販会社、メーカー、貸金専業など分野ごと・会社ごとバラバラに収集し、それぞれのルールで管理していましたが、80年代に入り、市場の急拡大に伴いカードの不正使用や偽造、庶民金融と相乗した多重債務問題が表面化してきたこともあり、1983年8月に貸金業法が施行されました。
ちょうどその激動期真只中の1982年11月に、私は大手カード会社審査部に配属され、審査業務全体の抜本的改革を命ぜられました。
審査基準の見直し、申込書記載項目確認のデジタル化、判定期間の大幅短縮などです。その一環として、業界を横断して個人信用情報機関の利用を積極的に推し進め、実際にその目覚しい効用を確認しました。
多重債務や不正使用の防止だけでなく、経験値を基礎としたアナログ的審査によってカードから締め出されていた方々を、会員として多数お招きすることが可能になりました。
入会審査だけでなく、途上与信全般にも応用できたからです。個人個人の信用性を、ピンポイントで迅速に把握できるようになったのです。

(㈱ 日本信用情報機構 H/P )
喩えが悪いですが、深海の魚群を探知するソナーを装備したような実感でした。可視化・一元化がもたらす社会的意味を確信したものでした。
そのころから、金融システムの健全な発展を目指すべく個人信用情報機関の再編が始まり、段階的にCIC,JICC、全銀協として統合・一元化が進み、近年は政府指定の公的な意味合いを持つまでにいたりました(右図)。
マイナンバーの一元管理はどうなるの?
では、マイナンバー構想では、個人情報はどのように処理されるのでしょうか?
どうも、内閣官房資料を見る限り、個人情報保護の趣旨で情報の一元管理をバッサリ否定しています。従来通りの分散処理のようです。
マイナンバー制度は、国民の個人情報を丸裸にさせる構想だけに、確かに個人情報保護に最大限の配慮が不可欠なのは言うまでもありません。
消費者の皆様が、「知らないところで自分の個人情報が可視化され、一元管理されると、何か不利なことが起きそうで嫌だなあ」と不安に思うのは、ごもっともです。
ただ、使用目的が公正で、本人にも必要に応じて開示される前提なら、個人情報の可視化・一元化自体、悪ではありません。むしろ、メリットの方が多いはずです。ややこしい納税ルールもシンプルにできるはずです。
カードの分野では、勤務先情報や収入情報、金融資産情報などの精度と鮮度が上がれば、カード会社の対応力が増し、与信の適正化はもちろん、今までカードを持てなかった人にも幅広く発行可能になるかも知れません。
今回政府から示された分散管理方針は、国家と国民の利益が公平に担保されるための合理性・経済性を大きな観点で厳密に比較した上での結論なのか、プロセスが不明なので釈然としません。
まとめ
今年は、奇しくも明治維新が終結した廃藩置県から142年、第二次大戦の終結から69年、日本は70年周期の大きな節目を迎えています。
実際、あの不幸な2011年の東日本大震災を契機に、「何かを変えたい」という風潮が高まってきました。私も、次世代に何かを残す年齢になってきましたので、不遜ながら国家百年の大計に属するようなテーマを、カードと絡めて今回語りました。
長年、カード実務を通して”明治以来の縦割行政システムの制度疲労”を常に感じとってきたからです。
もしかしたら、“クレジットカードは個人の生活全体を映し出す鏡”のようなシステムだからかもしれません。
ベラミーは、「奇抜な夢でも、その意思が純粋で、強固で、利他的なものであれば、いつかは多くの人に共有され、そして現実となる」ことを、私たちに教えてくれました。
マイナンバー制度が、「100年先を見越した人間個別の保護システム」という観点で策定されるよう願うばかりです。
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