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公開日: : 最終更新日:2015/12/08

カードバカ連載 カードあれこれ 第3回「日本のクレジットは、いつ始まったの?」

半世紀近くクレレジットカード一筋に関わってきた“カードバカ”が、
カードに関するあれこれを、独自の切り口で語ります。

カード研究家 小河俊紀

皆さん、こんにちは。 カード研究家の小河です。

「クレジットカードの起源は、1950年のダイナースクラブカード」と一般的に言われています。しかし、その枠組みの原型は、はるか昔に、しかも日本にありました。

連載3回目の今回は、カードの起源と本質を、分りやすくお話してみます。キャッシュレスを本当に理解すると、あなたの人生が便利で楽しく変わるかも!

日本でのクレジットの歴史

「クレジット」というといろいろな意味がありますが、私の連載では下記(赤字部分)の定義で使います。

※大辞林 第三版  クレジット【credit】

〔信用の意。また,会計用語で貸方の意〕

  1. 商取引や金銭の貸借において,客に対する信用。商品やサービスを購入する際に,販売業者や金融機関が消費者に供与する。
  2. 借款。
  3. 月賦などの信用販売。
  4. 書物・記事などに文章や写真を使用したときに明記される著作権者・提供者などの名。
  5. クレジット-タイトルの略。

世界での月賦販売の起源は,英国の地代の支払や、米国の家具代金の販売など諸説が ありますが、日本では,室町時代に始まった頼母子講(たのもしこう。金銭を融通し合う民間互助組織。無尽。)がルーツと言われ,古い歴史があります。

しかし,月賦という販売方法が今日のような形で行なわれるようになったのは,明治 28年(1895年)といわれています。

愛媛県越智郡桜井村(現在の今治市桜井)の「丸善」という呉服店の若主人である田坂善四郎が,販売促進の手段として,従来からの頼母子講式販売を一歩進めた「月掛け売り」という割賦販売を行なったのが草分け。

当地には日本における「月賦販売発祥記念の碑」が建っています。

もともと桜井村では、天保6~7年(1835~1836年)に、当地で漆器の大量生産が始まり、舟に積んで行商するようになっていました。

顧客の農民が冠婚葬祭で使う会席膳や吸い物椀,花見や村芝居見物で使う重箱など、荷主から預かった品物を村に置いて帰り、お盆と年末に集金して歩いたそうです。

また,売り子は村を訪れた時に,弁当のお茶をもらったり,時には野良仕事を手伝ったりしていて、売り手,買い手の間の親しみは,相互の信用となって季節販売(盆と年末の2回払い)となり,やがては月賦販売に発展していった、といいます。
(以上は、四国経済連合会発行資料から、要旨を抜粋。写真は、今治市ホームページ

一括後払いのルーツ

ここまでご紹介した伊予愛媛の漆器掛け売りが、日本におけるクレジットの起源との通説がありますが、私は越中富山の置き薬(当地では、売薬(ばいやく)と呼ぶ)こそ、クレジットシステムのもっとも古いルーツではないか、と確信しています。これから、その根拠を少し詳しくお話します。

※作成にあたり、一般社団法人日本クレジット協会「クレジット通史」参照。

ちなみに、私は、富山県富山市で生まれ、大学を卒業するまで当地で育ちました。

ですから、幼少時から、軽い風邪や腹痛のときなど親から当たり前のように置き薬を飲まされた思い出があります。実際、良く効きました。

数ケ月に一度、柳行李(やなぎこうり)を担いだオジさんが来宅し、使用した薬を確認・精算し、残った薬の更新を行いました。「使った分だけ後払い」でした。

遊び道具も少ない時代でしたから、点検作業を終えたオジさんから紙風船をもらって遊ぶのが楽しみでした。後に結婚した家内の身内が、先祖代々配置薬業者だったのも手伝って、強い親近感があります。

(以下は、一般社団法人 全国配置薬協会ホームページから抜粋・引用。)

「富山売薬三百年」存続の秘訣

日本では、「クレジットカードは借金」という社会認識が一般的です。いまや、生活必需品になったのに、どこか後ろめたい響きが漂うのは何故でしょう?

逆に、置き薬を借金と呼ぶ人は、誰もいません。ここから、その謎に迫ります。

咋春、いち早く全国チェーン1300店舗と、VISA加盟店で使える先端的なブランドプリペイドカードを発行して注目されているのが、大手ドラッグストア ココカラファインの「ココカラクラブカード」。

既に、本格発行から数か月で発行枚数300万枚(2014.3現在)に達し、2年間で1,000万枚を目指すそうです。正直、驚きです。

同グループの中核企業である「セイジョー」を育て上げた人物は、富山売薬の家の次男に生まれ、昭和26年(1951)に単身東京に出て薬局を創業した斎藤正巳氏です。

その斎藤社長(当時)が、経営に積極的に取り入れていたのが「富山売薬三百有余年存続の秘訣」であるといいます。

以下は、斎藤氏の言葉と、その解説です。長文になりますが、非常に含蓄がありますので、原文どおり引用します。
(引用元は、富山県民カレッジテレビ放送サイト。文字の赤着色は小河)

「富山売薬とは本来、個人業者のものだ。いろんなことを勉強していて話題が豊富で、話もうまい。知識プラス説得力もある。説得する貫禄もある。また、話し相手のいないご老人の話も上手に聞いてあげる。

だからお客さんは『いい話を聞いた』『この人にまた訪ねてきて欲しいから、この人の置き薬を飲もう』という気になった。値引きも言い出さない。

これがただの物販だったら、『もっと安くしろ』『もっと安く薬が手に入るよ』となる。富山の売薬さんは置き薬以外のところで、仲人もしたり、田畑の作り方の指導をしたり、いっぱい『タネ』を撒いてきたのだ。これが富山売薬に限らず、ほんとうの意味での商いではないでしょうか」。

同社の社員教育は、まず徹底した顧客への接客態度に始まる。挨拶から釣銭の出し方に始まり、それから医薬品などに関する知識へと移る。

最近では、ロイヤルカスタマー登録という顧客サービス 制度も設け、幾度も来店する顧客に関しては、レジなどで名前で呼びかけるように社員教育しているという。店頭販売において顧客一人ひとりを「個」で捉えるまでに指導しているというのだ。

コンピュータによる情報管理でそれがいっそう可能となった。では、この顧客一人ひとりの「顔」を実際に見て、その一人ひとりに個々に対応してきたビジネスの 代表は何か。それは言うまでもなく一軒一軒の家庭を訪ね、その家の人の「顔」と「生活の揚」をしっかりと見て商いを行なってきた、他でもない富山売薬だった。

「礼儀作法」「教養」「モラル」

そうした「他人の生活の場」に足を踏み入れるにあたって、富山売薬人たちは砕身の注意を払ってきた。それには決して欠かしてはいけないルールがあった。

それは「正直」であり、「勤勉さ」であり、さらに仏壇があれば必ず手を合わせ、その家のご先祖さまにまで敬意を表するといった「礼儀作法」であった。

置き薬を長年愛用してきた、ある地方のお得意先が作った川柳に、「戸を閉めて、またおじぎするクスリ売り」というのがある。富山売薬人にとっては、薬を売ることだけが商いではなかったのである。

その前に、いかに礼偽正しく、美しくお客さんの前で振舞うか、自分の身のこなし、一つ一つを いかに洗練されたものにするかが勝負だったのである。

その礼儀正しい態度にお客さんも応え、決して粗末に応対はしなかった。かつて、50年間に一度も値引きをしたことがなかったと話した富山の売薬 さんは、その秘訣を「それはひとえに、正しい礼儀作法のお陰です」と語った。

富山売薬が三百有余年の風雪に耐えてきた要因に「先用後利の商法」「懸場帳」等などいろいろ挙げられる。そのいずれもが正しいかもしれない。

しかし、それを超えて、その基本にあったものは、顧客を「個」で捉え、「個々」に対応し、その際に「正直」「勤勉」「倹約」を旨とし、さらに「礼儀作法」「教養」「モラル」に裏づけされた売薬人個々の「人間カ」だった。

ひとえに、この「ヒト」に支えられて、富山売薬は江戸期から明治・大正・昭和という時代の風雪を乗り越えてきたように思えてならないし、この 基本は平成の世になっても、その後も、なんら変わらないのではなかろうか。

人間力

飛行機も、電車も、車も、テレビも、電話も、ネットもない元禄時代に、柳行李ひとつ担いで関所を越え、全国隅々の家庭に医薬を普及させていった越中の置き薬。ほとんど奇跡のような史実です。武器を装備した侍と違うので、生命の危機に及ぶような裏話が沢山あったことでしょう。

しかし、斉藤正巳氏が述べているように、顧客を「個」で捉え、「個々」に対応し、その際に「正直」「勤勉」「倹約」を旨とし、さらに「礼儀作法」「教養」「モラル」に裏づけされた売薬人個々の「人間カ」があったからこそ、300年も存続してきたに違いありません。置き薬を借金と誰も呼ばない奥深い歴史と背景を、何か感じませんか?

売薬の歴史的意味

私は、1972年、故郷の大学を卒業後、クレジットカードに関する知識も情熱も乏しいまま、東京の大手カード会社に応募し、就職しました。

その後、いくつか勤務先が変わっても、42年間もドップリこの世界に生きてきました。冷静に振り返ると、もともと私自身に「越中置き薬」文化で育ったDNAがあって、クレジットカードに出会ってそのスイッチが入り、共鳴したとも思えます。

偶然かもしれないですが、不思議なご縁です。実際、前記の「ココカラファイン セイジョー」の斉藤正巳氏もそうですし、1960年に日本初のハウスクレジットカードを発行した「クレジットの丸井」の創業者青井忠治氏が富山出身であることをみても、富山にはクレジットのDNAが脈々と流れているような気がします(一介の小市民に過ぎない私の例を、お二人の偉人と同列に論ずるのは僭越ですが)。

ちなみに、1972年当時はオフィスコンピューターも普及していない時代で、私の就職したカード会社では、個別のカード会員データを紙製の会員台帳(社内では、個人票と呼称)に、手書きで記載・管理していました。

それを見て、越中富山置き薬伝来の顧客台帳「懸場帳」(かけばちょう、右写真)と似ているので、大変驚いた記憶があります。

この「懸場帳」には、世帯主の住所、氏名、家族、使用した薬の内容など顧客の属性情報・取引履歴が記載され、売薬業者最大の情報資産としてデータ化され、今でも代々引き継がれています。

(上表は、㈱サンシステム「e懸場帳」見本管理画面)

300年も前に、全国庶民の個人情報が世帯別に克明に収集・記録されていたのは驚きであり、日本が世界に誇るべき会員システム、CRM(顧客管理システム)ではないでしょうか。

歴史に学ぶクレジットカードの未来

予愛媛の漆器掛売りと越中の置き薬は、その歴史・背景・発祥地はまるで違うものの、明確な共通点があります。それは、販売者と消費者の間に、暖かい信頼関係がある点です。双方が対等で、人間として尊重し合う「大きな人間力」です。

月賦販売と、米国から移植されたクレジットカードは、戦後復興の波に乗って爆発的に普及しましたが、複雑な行政指導や法規制があって、長い間別々の歴史を歩んできました。

おかげで、カード本来の基本機能であるリボルビング払いが認可されるまで30年、日本固有の回数指定分割払いが解禁されるまで40年もの歳月を要しました。その名残で、今もカードは一回払いが主流です。世界でも稀な事例です。

世界に誇るべきクレジットの文化・歴史がありながら、近年、歴史が逆回転するように、分割に関する関連業法が改定され、銀行以外の金融業者に対する諸規制が大幅に強化されてきました。

例えば、借り入れ枠を年収の3分の1以下に制限する総量規制と、庶民金融ではありえない低金利の強制です。自由競争が基本の世界市場では、稀な国策です。これによって、多くの善良な資金需要者、零細事業者まで排除されています。

さらに今、畳み掛けて1回払いにも規制の網をかけようとする動きが起きています。ごく一部の不健全なトラブルを回避するために、大半の健全消費を押さえ込むというのでしょうか。もっと大きな視野で、解決を図る方法がないのでしょうか?

2020年に開催される東京オリンピックを契機に、「人と人の信頼関係を結びつけ、生活を便利で豊かにするカード機能」を、歴史的・国際的視野で正しく捉えなおし、300年先まで生きながえる仕組みに定着させたいものです。

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