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公開日: : 最終更新日:2015/12/08
カードバカ連載 カードあれこれ 第6回 「人の縁と、カード」
半世紀近くクレレジットカード一筋に関わってきた“カードバカ”が、
カードに関するあれこれを、独自の切り口で語ります。
カード研究家 小河俊紀
皆さん、こんにちは。カード研究家の小河です。
前回は、現金の弊害について私見を書きました。そして、その総本山である日本銀行について、若干触れました。
思いがけず、消費生活アドバイザーである知人から、「労作」とお褒めの言葉をいただきました。普段、辛口の方なので、少し安堵しました。
本音を言うと、この原稿を発表するには、結構勇気がいりました。
なぜなら、通貨という奥深い領域に立ち入る怖さに加え、このサイトのシンボル「語り部(かたりべ)」として精力的に書き続けられている末藤高義氏は、日本銀行ご出身ですし、以前大変お世話になった方だからです。
人の縁
人の縁とは不思議なものです。私がまだ、大手楽器メーカーのカード事業責任者在任中(2000年ころ)に、末藤氏と仕事で出会いました。クレジットカードの基礎知識を学ぶ社内研修講師として。
難しいことを難しく話すことは、多少の専門性があれば誰でもできます。しかし、難しいことを簡単に説明するのは相当のレベルでないと無理です。私も、一応、大手カード会社出身でしたので、研修講師の人選にはこだわりました。
末藤氏、いや末藤先生は、それまでにカード専門家として、カード業界誌等で論文を沢山発表されていました。もと日銀マンの目でクレジットカードを素直に咀嚼されてきたためか、すべてが分りやすく、明晰で、かつグローバルな実務体験に裏打ちされていました。
知人を介して、社内研修の講師をお願いした経緯でした。当時は既に一線を退き、静養のため外房白浜で生活されていたのですが、私の依頼を快諾いただき、毎週1回2時間、計2ケ月間にわたる研修のため、電車を乗り継いで3時間がかりでかけつけてくださり、恐縮の限りでした。
豊富な研修資料を用意いただき、当時のハイテクOHP(オーバーヘッド・プロジェクター)を駆使した研修は期待どおりの内容でした。それ以降、何か教わりたいことがあると、時折電話をさせていただいたものです。
クレジットカード徒然日記での再会
当連載サイト「クレジットカード徒然日記」は、消費者向け各種カード関連サイトの中では、非常にユニークです。私の知る限り、カードの付帯ポイント率や、入会基準、年会費等の比較サイトが大半です。確かに実利的で分かり易いのですが、カードの本質とは関係がありません。
ところが、このサイトは、「日本では、本質が正しく理解されないままカードが流通している。基本的な機能や効用について、正確な情報発信がカード業界経験者からあってもいいのではないか」という真摯な運営方針です。
昨年4月に、企画案を直接オファーいただいた時、責任も重いし、実名で書く事に若干躊躇しましたが、「執筆してよかった」と今は思っています。
とりわけ、(偶然ではありますが)このサイト並行執筆者として、前記の末藤先生とのご縁を10年ぶりに復活できたのは、想定外の感動でした。光栄です。
運命的なプロフィール
サイト編集長の仲立ちで、私たちは昨年秋に、先生ご自宅付近のレストランで実際に再会し、懐かしいひと時を過ごすことができました。齢86歳になられ、少し耳が遠くなられていた以外は、以前と同様温和で明晰で、謙虚でした。
しかし、この会食時に、私は先生の運命的な凄い人生の一端を初めて知ったのです。そして、その真髄に触れたのが、最近拝読した自叙伝「ある日銀マンの昭和史」でした。(民事法令研究会。2013年5月発刊)一晩で一気に読み切りました。
ちなみに、下表は、当サイトで公表されている略歴です。
おそらく、読者の多くは、一目で「典型的エリート」と思われたことでしょう。
末藤氏は昭和4年(1929年)生まれですが、それを前提に金融やカード業務に携わる方がプロフィールを見れば、実は不思議がいっぱいです。
終戦直後の1947年、旧帝国大学(東大を頂点とする名門国立大学)卒業の学歴もないまま、18歳にして天下の日銀へ入行できたのは何故?
- さらに、1963年(昭和38年、)34歳にして、(日銀在籍のまま)超難関といわれた「全額支給のフルブライト留学」体験ができた理由は?
- 1984年(55歳の時)、日銀と真逆の世界、しかもまだ成長初期段階のカード 業界になぜ転身?
- しかも、Visa International東京事務所(現Visa Worldwide Japan) 支配人、日本信販(現 三菱UFJニコス)参与、そしてVISAのライバル「MasterCard International(現MasterCard Worldwide)」在日副代表という要職を、わずか10年という短期間で歴任した経緯・背景・任務は???
転機をバネに
答えは、実際にこの著書を通読するとおおよそ分りますが、プロローグの次の一節には深い意味が込められています。
「熊本に戻った我が家は空襲で丸焼けとなった。知り合いの家の離れの8畳一間に一家5人。父は空襲による火傷が原因で寝たきりになり、着る物なし、食べ物なしの極貧生活が始まった。(P.10)」
おそらく、太平洋戦争末期に米国の空爆がもたらした過酷な運命がすべての原点ではないでしょうか。1945年7月1日、16歳のときに空襲を受け、九死に一生を得たのですが、そこから、努力に努力を重ね、必死に這い上がっていかれた人生なのです。
もちろん、誰もが努力だけで成功するとは限りません。生きる姿勢の真剣さと使命の重さに、諸天が応えたのではないでしょうか。
私なりの解釈では、「若い時期の辛酸と、日銀37年の豊富な経験と人脈を基礎に、人生の後半で日本に国際カードを普及させる天命を授かった人」ではないでしょうか。
実際、著書の帯で、「捨てる神あれば、拾う神あり!人生、努力を続ければどうにかなる!」と末藤氏は述べておられます。
戦禍による極貧の青春時代から、国際的なスケールで活躍する20代~60代のダイナミックな人生展開は、正にドラマです。
転機をバネにする勇気が、半端ではありません。10代から遭遇した転機のたび、不思議な人の縁(支援)を得て、まったく新しい世界に飛翔されたのです。
見方によっては、無謀ともいえるでしょう。しかし、天は使命ある人には転機を与え、縁ある人を介して新しい世界に導くのかもしれません。
カード業界での功労=グローバル化
2020年東京オリンピック開催が決まり、最近になって「カードシステムのグローバル化」が国家的規模であらためて強調されるようになってきましたが、日本におけるグローバル化路線を30年前に最初に敷いた人こそ、末藤氏なのです。
VISA,MASTERブランドのステッカーを掲げた店なら、どこのカード会社が発行しているVISA,MASTERカードでも共通して使えるようになったのも、銀行系以外のカード会社(例えば、信販会社、流通系カード会社)にも両国際ブランドの発行ライセンス契約を開放したのも、末藤氏の功労です。今では当たり前に見えますが、ガラパゴスだった日本のカードシステムを、国際レベルに近づけた苦労は、並大抵ではなかったでしょう。
ちなみに、還暦60歳にして、懇願されて入社したマスターカード・インターナショナル在任中に、香港警察と連携し拳銃片手に香港のカード偽造団のアジトを捜査したこともあるそうです。文字通り、生命賭けの仕事でした。
残念なことに、カード業界でその履歴・実像を認識している人は、ごくわずかです。
人脈は財産
カード会社は装置産業なので、固定資産をほとんど保有していません。しかし、優秀な社員をふくめ、カード会員・加盟店という大量の「無形人的資産」を保有しています。
だから、その発展が途切れないのです。「人は石垣、人は城」です。そのことに気付くと、仕事が無限に生まれます。
かつて、カード業界が無名に近い1970年代、未来を夢見る若い私は「この会社での業務経験は、いつか何かの役に立つんだろうか?」と、同僚と自虐的に会話したものです。同じ金融分野でも、銀行員のような潰しが効かないからです。
それから30有余年、還暦を機会に平凡な私でも「カード業務経験を基礎とした経営コンサルティング、特に、中小企業の経営拡大を支援する事業」を開業でき、7年間も続けてこられたのは末藤先生はじめ今までに縁した多くの恩人のおかげ、というしかありません。
人の力は無限、人脈は財産です!
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