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公開日: : 最終更新日:2015/12/08
カードバカ連載 カードあれこれ 「1+1=2の原則」
この会社で早期定年を迎えるまでの13年間、私はモノ作り企業でのカード事業を沢山学びました。
たとえば、カード会社にいたときは、 「1+1>2、という計算外の進化の法則」に馴染んできましたが、厳密な設計図をもとに製品を丹念に完成させていくメーカーにおいては、1+1=2であり、安易な希望的事業予測はタブーでした。
企画書には、精緻な数字的裏付けが必須でした。
その一方、この会社には全国に隈なく展開する特約販売店網に加え、直営店という独立採算のアンテナショップを主要都市に配置し、皮膚感覚で消費者ニーズを探っていました。
ですから、販売現場から上がってくる意見は、カードに関しても的を射た鋭いものばかりでした。
たとえば、「カード年会費は、何に、どのように使われているんですか?」同社のカードは、大手カード会社との提携スタイルなので、カード年会費収入は管轄外なのですが、曖昧にもできず困惑した記憶があります。
メーカーでの消費者目線=社内も販売店もお客様
このメーカーは、すべての部門の収支が部門完結で、ひとつの企業のようにガラス張りでした。特に、私の担当部門ふくめ営業部門の赤字は絶対悪でした。上場企業なので、株主責任も影響したのでしょう。
部分最適の上に立った全体最適しか認められず、事業責任者として業務全体をいつも分解点検していた記憶があります。
なぜなら、社内部門の多くと、主要特約店200店もカード事業のクライアント(お客様)でした。
各部門・各店の販売商品利用者(カード会員=消費者)に対し、カード事業は横断的なマーケティング機能を担っており、その代行手数料を受け取っていましたので、「誰にとっての、何のためのカードか?」を絶えず問われていました。
消費者対応が、社内、およびカード会員を獲得してくれた特約販売店の要望と矛盾しないことが前提でした。
今振り返ると、 「メーカー ⇒卸 ⇒ 小売店 ⇒ 消費者 を連結した多次元的な消費者目線」でした。この体験が、同社リタイア後に思わぬ発案を生み、今の仕事につながる土台となりました。(詳細は、別稿でお話します)
時代を先取りした思い出
そういう環境の下、時代を先取りした仕事を何度も経験しました。とりわけ強烈な思い出のひとつが、入社間もない1990年から実施した「ポイント値引きサービス」でした。
当時、汎用カード利用額に応じたポイントサービスとは、あくまで「おまけ」であり、カード会社の選んだ商品見本(生活雑貨)と交換するスタイルでしたが、欲しいものがない場合や点数がわずかに足りない場合、ポイント価値が損なわれる不便さがありました。
ある日、部内会議で、カードホルダー(消費者)として普段感じている不満を議題に討論していると、「その点数を、単純に10円単位の金銭価値に換算し、通販代金から差し引いて決済したらどうか」という発案が起こりました。
ちょうど、消費者向け雑貨・家電製品の訪販・通販を行っている部門なので、精算システムの一部修正だけで実施可能でした。
問題は、たとえば、4,350円相当のポイントを保有している場合、6,000円の商品が1,650円で買えるケースも起こりうる。
一見、原価割れに見えるので、「独占禁止法や景品表示法などに抵触しないか」という不安でした。
顧問弁護士を通じていろいろ調査しましたが、当時はこのようなポイント値引きサービスの先行事例がなく、「特に違法ともいえない。」との回答でした。
それで、この会社では珍しいアバウトさで「ともかく、やってみよう!」とスタートしたわけですが、いきなり初回から、大きな反響を呼びました。
売り上げが前回比50%アップに跳ね上がり、以降、毎回記録更新が続いたからです。カード利用総額も漸増し、役員会の話題にもなったそうです。
もちろん、ポイント原資は提携カード会社からスイッチしてもらいましたので、無理をしていません。
それでも、あまりにも反響が凄いので、「不当廉売とみなされる⇒“刺される”懸念」が社内で高まり、わずか2年で自主的・段階的に撤退しました。
その後、皮肉にも日本経済のバブル崩壊が起こり、デフレ下でこのスタイルが日本全体に広く普及してきたのは、ご承知のとおりです。
今思えば、「会社として特許化していたら」といささか無念の思いです・・・(右図=「貯まったポイントの使い方」2014/6 調査資料)
意識改革
消費者目線を育て、保ち続けることは、並大抵ではありません。ましてや、今はネットで口コミがすぐに拡散する時代です。
絶えざる勉強と意識改革、そして、時には、消費者啓蒙も必要です。以上の意味で、変化が激しく、幅も奥行きもあるカードの全体像を手引書に書くことは至難の技なのです。
幸い、私は「カード会社と楽器メーカー」という対照的な大手企業に勤め、多面的にカードと接してきました。
そして、その後も今に至るまで、決済代行企業やギフトカード会社はじめ、様々な業種業態の企業の顧問として、カードに対する消費者目線を通算42年間鍛えていただきました。
恩返しの意味でも、「消費者目線のカード」について、今後も可能な限り語っていきたいと思います。
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