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公開日: : 最終更新日:2017/10/19

プリペイド決済の光と陰<5>

シームレスに決済(支払い)が完了し、現金どころかカードもスマホも必要としない新しい決済社会が訪れるのも、決して遠い将来ではないと、最近の科学技術の進展(生体認証、AI等)をみると実感するこの頃です。

新しい決済社会とは何か、「キャッシュレス社会」もその答えの一つですが、では「キャッシュレス社会」とは何かと言われれば、その解答の「引き出し」は一つではありません。

ニューズウイーク日本語版記事より

<米ウィスコンシン州の自動販売機メーカーが、米国企業として初めて、従業員に体内へのマイクロチップの埋め込みを実施する>

マイクロチップを手に埋め込んだ従業員が、手をかざすだけで、オフィスの出入り口を解錠したり、パソコンにログインしたり、社内の自動販売機でジュースを購入したりする。

ITメディア エンタープライズ記事より

カード不要、手のひらで“決済” JCBが実証実験

手のひらをカード代わりに決済を――。JCBと富士通、富士通フロンテックが、手のひら静脈認証技術を使った決済スキームの実証実験を開始する。

もちろん、このような社会の在り方についての是非については、他の分野での論議が必要ですが、先進技術を積極的に取り込み、快適な決済環境を提供しようとする試みが世界各地で見受けられるようになりました。

一方で、通信環境、通貨環境などの社会インフラの未整備・不安定な国々では、インフラ整備を飛び越えて一挙に非接触化・シームレス化に向けた決済サービスの普及が進んでいます。

日本は、手続きの国、前例の国として国づくりが進んできた経緯もあり、社会インフラに直接接続する機能やサービスは、カタツムリのようにスローな速度で、実用化されてきたきらいがありました。

一方で世界有数の技術立国また企業として、戦後、奇跡の復活を遂げてきたDNAが技術至上主義を創り上げ、世界戦略という脈絡で見た場合に、多様な価値観で動く国際社会での見通しや、ロビー活動の未熟化により、致命的な遅れをとることもありました。

前回紹介をしました「feliCa」も、そうした世界戦略の波に飲み込まれた一つの例かも知れません。

電子マネーEdyの登場と推移

Edyはビットワレット社が提供する電子マネーです。現在は楽天Edyとして楽天グループの楽天Edy株式会社が事業運営主体となっています。

Edyは電子マネー事業として本格的にスタートした時のブランド名で、ユーロ(Euro)、ドル(Dollar)、円(Yen)の頭文字を取って命名されたと言われています。

ビットワレット社は、ソニー、ソニーファイナンス・インターナショナル、NTTドコモ、トヨタ自動車、DDI(現KDDI)、さくら銀行、東京三菱銀行、三和銀行(いずれも当時)など11社の出資(50億円)を受けて、2001年に設立されました。

「ハードで儲けるのではなく、サービスで収益を上げる『収穫逓増型』のビジネスを目指すこと」 とのソニー出井社長の方針をバックグランドとして、「電子マネーを普及させるのは困難」 「インフラの整備に金が掛かる」 「電子マネーは儲からない」と、なかなかゴーサインが出なかった上司の見識を覆し、電子マネー事業のゴーサインを勝ち得た担当者にとっては、何ものにも代えがたい瞬間であったことは想像に難くありません。

しかし上司の見識が、10年も立たない内に現実のものになってしまいました。

図-1 ビットワレット社の損益推移(推定)

カード戦略研究所作成

図-1は、ビットワレット社の操業時から2007年度までの損益の推移(推定)です。その間一度も単年度黒字は達成できず、7年間の推計赤字は322億円(推定)となりました。

図―2は2007年当時のビットワレット社の状況(簡略)です。

図-2  ビットワレット社の状況(2007年頃)

ビットワレット社の状況(2007年ごろ)
資本金 約364億円
カード発行枚数 約3880万万枚(携帯約760万)
600種類(会員証・クレジットカード・キャッシュカード・社員証・学生証一体型等)
加盟店 約74000店(当時、セブンイレブンやFMは未加盟)
月間取扱件数 約2400万件

 カード戦略研究所作成

図-1、図-2でお分かりの通り、2007年度までのビットワレット社の業績は、カードの発行枚数や加盟店数の割に売上は伸びず、このままの推移が続けば、債務超過に陥り、金融庁からの立ち入り検査も予測され、2007年、2008年は同社の正念場にあったことが窺い知れます。

当然、経営者側は、ソニーを始め各社に、更なる出資を求め事態の改善を図ろうと努力を重ねていたに違いありません。

しかし7年間の推移と、今後の見通し計画から、楽天以外に新たに出資を申し込む企業はなかったようです。

ビットワレット社は楽天の資本参加、子会社化を経て、楽天Edyとして新たなスタートを切ることになりました。

ではビットワレット社(Edy)が、何故厳しい状況を迎えるに至ったのか、楽天グループ傘下以前のビットワレット社を通して、電子マネー事業を振り返り、何が問題であったのか、その一端に近づきたいと思います。

Edyから学ぶ電子マネー事業

Edyが生まれる前でしたが、ソニーのⅯ氏から「香港のオクトパスカードを見て、ソニーが単なる部品メーカーでしかないことに、寂しさを覚えました。我々のFeliCaを使って、カードビジネス事業を香港全体に展開している。

その収益を考えたら、我々は単なるパーツの供給で、僅かな利益でしかない。」と聞かされたことが、今でも印象に残っています。余談ですが、Ⅿ氏はその後ソニーから大学の教員に転身をしたと伝え聞きました。

ソニー資料から

さて、様々なソニーの思いが結集されEdyが誕生しましたが、誕生間もないころ、私は当時のトップ陣に、過去のプリペイドカードビジネスの失敗を念頭に質問をしました。

「10年前のプリペイドカードビジネスではないですが、赤字先行の事業構造、収益モデルの不透明性など問題はないのか。」

「十分そのことは研究した。新たなビジネスモデルでスタートする。参加する企業も大手中心で、財政的基盤も心配ない。」といった趣旨の会話を交わしました。

過去のプリペイドカード事業(ビジネスモデル)と、どこが、どのように違うのか、言い換えれば事業性(収益性)の点で、どのように優れているのか、プリペイドカード揺籃期に次々に現れ消えてったプリペイドカードビジネス(前回までに紹介)をまじかに見てきた一人として、そのような手があるのか、疑問と期待が入り交じり興味津々でした。

興味津々という言葉は、不謹慎なのかも知れません。当事者にとっては、それどころではない自らを賭しての戦いなのですから。

その理由は、過去に九州のある県で地域発のプリペイドカード会社が設立されたことが頭にあったからでした。

元々は九州の他県でスタートした地域型のプリペイドカード事業(この経営者の方にも何度も会っていますが)のノウハウを導入して、資本金10億円で設立された会社です。

縁あって、この会社のT社長とは長くお付き合いをすることになったのですが、大変な努力と工夫を重ね果敢にプリペイドカード事業を展開してきましたが、やがて事業を閉じることになりました。詳しくは回を改めて紹介する予定ですが、そのT社長の無念さも重なり、どのようなビジネスモデルがEdyにはあるのか、やはり興味津々でした。

ビットワレット社が、設立当時に説明していたEdyのビジネスモデルは次のようなことでした。

Edyのビジネス構造

ビットワレット社資料

Edyのビジネスモデルの特徴を示したのが上図です。

①ビットワレット社のスタンス

ブランドホルダーとして、ビットワレット社は、Edy電子マネーの発行者(イシュア)にはならない。

②ビットワレット社の主業務

ⅰ)Edyカードの発行推進・支援・加盟店獲得、バリューイシュア各社との連携調整を行う。
ⅱ)Edyカードの販促業務およびバリューイシュアとの代金精算業務など。
ⅲ)Edy決済がスムーズに行えるための機器、システム開発などを行う。

「中村さん。クレジットカードビジネスのブランドホルダーと思って下さい。

VISAブランドが搭載されたカードと同じように、Edyが搭載されたクレジットカードやキャッシュカード、匿名性が担保されたカードも当然ありますよ。あらゆるカードにEdyを搭載していく予定です。」

その説明に、トップ陣の確かな自信を感じましたが、私の疑念が100%晴れたわけではありませんでした。次回は、その後の7年間のEdyの軌跡を追いながら、電子マネーの可能性と課題について考えたいと思います。

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