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公開日: : 最終更新日:2017/10/18

プリペイド決済の光と陰<2>

1.プリペイドカードビジネスは儲かるの?・・その1・・

クレジットカードビジネスは事業性を確立し堅調な成長を遂げています。ではプリペイドカードビジネスはどうでしょうか。

クレジットカードのように与信管理も必要なく、信用供与のための資金を用意する必要もありません。

其ればかりか資金が前以て利用者から入るわけで、キャッシュフローから見ても事業者側のリスクは低く、ビジネス環境は恵まれているのではないかと考えがちです。

この答えに辿り着くには、「プリペイドカードビジネスの目的と仕組み」について理解する必要があります。 プリペイドカードビジネスの目的は、以下の3形態に分類することができます。

<第1義の目的>

①カードビジネスとして展開<収益事業>

収益事業としてプリペイド決済事業を展開するビジネスモデルで、収益の主力がカードビジネスで、クオカードやEdyなどが該当する。

②販売促進・マーケティングツールとして展開<マーケティング戦略>

主にハウスカードとして発行・運営され、自社の販売促進(固定客化、売上増進等)のためのツールとして活用、nanacoや百貨店ギフトカード等が該当する。

③効率化・省力化のツールとして展開<生産性の向上>

主に社内システム装置、インフラの効率化、省力化のために発行・運用される。テレホンカードや交通系乗車カードなどが該当する。

何のためにプリペイドカードビジネスに参入するのか。その第1義の目的により、経営形態(本体業務・付随業務など)や事業性、戦略も異なり、結果として参入が成功なのか失敗したのかの評価も分かれます。

カードビジネスの評価は短期的には測りにくく、一定のスパン(個人的には10年程度と思っています)を設けて評価すべきであり、その意味でプリペイドカードビジネスの歴史を振り返りつつ検証したいと思います。

(1)プリペイドカードビジネスの台頭と揺籃期

私がカードというものを直接テーマにするようになったのは、1980年(昭和55年)ごろで、当初は紙シールを媒体としていたスタンプサービスを何とかカード化できないかというのが始まりでした。

現在百花繚乱しているポイントカードの原型と理解してもらえればと思います。

その過程で気が付いたのがクレジットカードの利用状況で、特に「ほとんどのクレジットカードは、百貨店や各種専門店等など非デイリー分野での普及が主で、スーパーや小売店などデイリー分野では普及が進んでいない。」という点でした。

当時の「月刊消費者信用」や「消費者信用白書」などでは、こうした現状に対して①発行枚数、発行種類、取扱高は急速に進展しているが、スリーピングカードの比率が高くなっている(約45%に達している)ことと、カード1枚当たりの売上高・活用頻度が減少している。

②ローン、リボ中毒(キャッシング含む)に代表される代表される多重債務者の増加と、それにまつわるカード犯罪、またプライバシーに関する未整備、社会問題発生への対応策が遅れている。と指摘され、当時7%にも満たないクレジットカード決済比率(対民間消費支出)でさえ、多くの課題が発生していることを問題視し、消費者の視点で見れば、生活カードとは言い切れないと感じていました。

同時に、ではどうしたら消費者に受け入れられる生活カードを実現できるのか研究を進める最中で、昭和58年(1983年)頃から本格的に普及しかけていたテレホンカードを、ショッピングに利用できないかと議論が持ち上がり、テレホンカードのショッピングカード化の実現に向け具体的な行動を開始しました。

クレジットカードと比較して「使いすぎることがない。」「与信もなく、誰でも使える。」というメリットに着目をしましたが、机上では限界があると考え、フィジビリティスタディの一環としてテスト導入の必要性を感じ、その実施に向けて走り出しました。

当時の事ですから、店舗用のカード端末機も専用のカードもありませんし、法律関連もどうなっているのか、全て手探り暗中模索状態でしたが、短期間でハードメーカーや実施スーパーの協力を得て、テストマーケティングに扱ぎ付けました。

実験内容の詳細は省きますが、その結果が日経新聞で紹介されるや否や、全国的な反響を呼び、カードビジネスに一石を投じることになりました。

・・・余談ですが、当時「プリペイドカード」という呼称は見かけず、日経新聞の記者から相談を持ち掛けられ、英文の文献で「PostpaidとPrepaid」とあることに着目し、「プリペイドカード」でいいのではと二人で相談、以降の日経記事は「プリペイドカード」という言葉が使われるように。・・・

・・・もう一つ余談ですが、プリペイドカードに関する単行本「プリペイドカードのすべて」(写真)を執筆、昭和63年に日本で初めて発行、当時出版社の担当者から部数が1万部を超えたと報告を受けました。・・

「プリペイドカードのすべて」(ビジネス社)

さて、テストマーケティング(実施期間10カ月間)を通して、様々なノウハウと可能性、また課題を得たわけですが、これは店舗に限定されたハウス型プリペイドカードの実験(上記②の本業を支援する販売促進・マーケティングツール)で、収益を目的とするものではありませんでしたが、 その後、多種多様な分野、業種でハウス型プリペイドカードが急速に普及して行きました。

一方で、汎用プリペイドカードにも注目が集まり、続々と大企業が出資する汎用型プリペイドカード発行会社が誕生しました。

(2)汎用型プリペイドカード会社の栄枯盛衰

時代の寵児として注目を浴びた汎用プリペイドカード会社は、10年も立たない内に、その多くは撤退、吸収、統合という末路を辿り、市場から退場して行きました。簡単に言えば、儲からなかったのです。

儲かるどころか創業赤字も解消できないまま、多くの企業は消えていったということです。

バブル期の企業は、「それゆけどんどん」少しでも儲かりそうな新規ビジネスには敏感で、テレホンカードで退蔵金(未使用のカード代金)が数百億円も発生しているとの情報に、他社に遅れまいとの意欲が優り、事業性という最も重要な観点を置き去りにして、資本金数億円から数十億円の汎用プリペイドカード会社(例:図表1)が、1987年以降次々と設立されたのです。

当時の自販機専用カード・チケット専用カード(例)

図表1 発行会社の多目的プリペイドカードシステム概要図(一例)

私の所にも、ある政府系銀行の担当者からプリペイドカード会社設立の相談があり、ソフトウエア大手会社の役員会で「汎用プリペイドカードの前にハウスプリペイドカードでの経験を積むべきであり、汎用プリペイドはその後でも遅くない。

焦れば失敗する可能性が高い。」とアドバイスをしたことがありました。

そのこともあり、設立されたプリペイドカード会社は、当初はハウス型プリペイドカードシステムの提供、暫くしてCVS導入をきっかけに汎用プリペイドカードの発行に踏み切りました。(この会社のその後の経過は次回で述べたいと思います。)

しかし汎用プリペイドカードをビジネスとして展開するのであれば、何処で収益を確保するのか、クレジットカードの場合は、加盟店手数料、会員年会費(ゴールドカードを含め)、キャッシングリボやショッピングリボ、カードローンの金利手数料、その他受託業務やアクアリングフィーなど確実な収益項目がありますが、プリペイドカード発行会社には残念ながら確立したもの(思惑はあったのですが)はありませんでした。

独自の加盟店網もなく、カードの流通・販売チャネルもないビジネス環境にあったことです。

SWOT分析で言えば、肝心な強みが無く、加盟店からは足元を見られ、優位な取引条件(導入コスト・手数料などランニングコスト)を引き出すこともできず、カードを販売する独自チャネルも脆弱で、反転するためには、相当の時間、労力、コストが予想され、その見通しも甘かったと私は見ています。

さらにプリペイドカードビジネスに大きな影響を与えたのが、カードの偽造変造問題(当時のプリペイドカードは裏面に磁気を塗布した全面磁気カードが主流)で、テレホンカード、ハウウエーカード、パチンコカード等その被害は発行会社を越えて社会問題化しました。

しかし、この時代に登場した汎用プリペイドカードの中には、様々な変遷を経て、今日まで生き残っているカードもあります。

こうした経験が、第二期プリペイドカード時代(接触ICカード型電子マネー時代)、第三期プリペイド決済時代(非接触ICカード時代)に活かされたのか、儲かるビジネスモデルへの転換が実現したのか、次回では、「失敗と生き残り」に焦点を当てながら、プリペイド決済ビジネスを検証していきたと思います。

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