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金(gold)をめぐる話

まえがき

「不思議に金(gold)に縁があるなー」と私は思います。と言って、私は決して金の亡者ではありません(専門用語でいうgold propensityはゼロです)。

私は、18金の結婚指輪以外にはいまだかって金を持ったこともありません。そのような私が、なぜか、日銀現役時代、次々と金を扱う(あるいは調べる)立場に立たされ、金について興味を抱くようになりました。

NY勤務当時、NYやシカゴ連邦銀行の地下金庫にお行儀よく並べられた金のインゴットを見る機会を与えられました。

その光景はあたかも波打ち際に歯をむく岩礁のようでした。いわゆるニクソンショックで米ドルと金との交換が停止され、国際為替市場が大津波で翻弄されたときも、その波しぶきをまともにかぶる立場に立っていました。

まえがきが長すぎました。以下、これまでに集めた金に関する資料や経験から幾つかを取り出し、簡単にまとめてみましょう。

1.金の性質

金は、金鉱からそのまま採掘されるか、又は、砂金として採集されます。固体金属として産出されるので、精錬の必要はありません。

人類は、その輝きを愛でて装飾品として古くから金を求めてきました。まったく混じりけのない純金は通常24金(24K)と呼ばれ、比較的柔らかい金属です。

これを加工し易くするために、純金にに銀と銅を混ぜ合わせ、金を75%、銀と銅とを合わせて25%にしたものを18金(18K)と称します。

英語でductilityという単語があります。この言葉は金の展性(薄く広げる)と延性(糸のように引き伸ばす)を意味し、金は柔らかく粘性に富む金属であるという説明の中でよく使われます。

2.金と人類のかかわり

●世界史的にみて

金は人類が使用した最古の金属です。人類と金とのかかわりは紀元前4000年ごろのオリエント文明から始まったと言われいます。

その希少性ゆえに、豊かさと富、権力誇示の象徴として珍重され、個人間、国家間の争い種ともなってきました。主な飾りや記録は次ぎのとおりです。

紀元前5000年 メソポタニアの金の兜
紀元前4000年 エジプトのツターンカーメン
紀元前2500年 古代エジプト ヒエロクリアの金の記述
28-924年 創世期 旧約聖書 エデンの園に流れる川から採れる金
1271年 マルコポーロの東方見聞録 黄金の国ジパング
1848年 米国カリフォルニアのゴールドラッシュ

●日本では

昔、日本は世界有数の産金国でしたが、当時の政権は金に執着せず、中国、宋との間の貿易で大量の金が国外に流出してししまいました。

金が貨幣としての地位を占めたの は江戸時代でした。それまでは、金は専ら装飾品として扱われてきました。

古代 奈良東大寺大仏の塗り金
平安時代 日宋貿易で日本は金を与えて銅銭を輸入していました。
江戸時代 幕府は佐渡の金山から掘り出される豊富な金をバックとして、それまで乱れていた貨幣制度の改革に乗り出しました(慶長小判の鋳造)。

現在でも残る主な金の工芸品や逸話は次のとおりです。

745年 奈良東大寺大仏の塗り金
1120年 中尊寺の金色堂
1580年 豊臣秀吉の黄金の茶室、金の茶釜
1601年 佐渡の金山ブームと強制労働者

3.金産出国と各国の金保有量

金の統計は、国際決済銀行(BIS)が単発的に発表する計数が一番信頼できますが、手元にある資料が古いので、ここではWikipediaにより、2014年末現在の数字を紹介しておきます。

●主な産出国

南アフリカ 全体の15%(かっては、70%でした)
オーストラリア 15%
米国 10%
中国 10%

●各国の金保有量(政府・中央銀行の保有量)

米国 約8,133トン(全量の約25%) 1948年当時、米国は世界の金の約70%を独占していましたが、その後この比率は減少を続け、現時点では3分の1までに低下しています。
ドイツ 約3,384 動乱の国際金融時代、ひたすら金を買い集めました。
IMF 約2,814
イタリー 約2,450
フランス 約2,435
中国 約1,054
スイス 約1,040
total 約32,033

4.金本位制とは?

金本位制は、1816年英国で生まれ、1971年米国によって終止符を打たれました。55年間の命でした。その間、紆余曲折がありました。以下、主な足取りを追って見ましょう。

金本位制(gold standard)とは、一国の貨幣制度の根幹を成す基準を金と定め、その国の貨幣価値を金で裏付ける制度です。

自国単独では金本位制を実施できない国でも、金本位制を採用している他の国の通貨と自国の通貨とを一定の比率で交換する方法で金本位制を採用する(いわゆる金為替本位制)こともできます。

金本位制は固定相場制の一種です。1923年に出版されたケインズの「貨幣改革論」は、この制度を「未開発国の遺物」と称し、自由な管理通貨制度への移行を説きました。

金本位制の理念は古く、東ローマ帝国のソリドウス金貨に端を発したと伝えられています。その後、この理念が1816年の英国貨幣法に引き継がれ、金本位制が始めて法的に実施されました。

同法の下で発行されたソヴリン金貨が1ポンドとして強制通用力がある無制限法貨として流通しました。

金本位制は、19世紀末には国際的に確立されましたが、その後、第1次世界大戦により中断されました。

1919年、米国が金本位制に復帰したのを皮切りに、各主要国も復帰しましたが、1929年の大恐慌により同制度は再び機能しなくなりました。

第2次世界大戦が始り、米国は当時世界唯一の産業大国となり、各国は金を対価に米国から武器や食料を購入しました。

その結果、世界全体の金の実に7割が米国に集まりました。米国はこのようにして集めた金をバックにして1946年、米ドル金為替本位制を中心としたIMF体制(いわゆるブレトンウッズ体制)を創設しました。

しかしその後、各国が経済を回復し、米国から金が流出し続けました。1971年米国は、突然米ドルと金との兌換を停止(当時の大統領の名を取りニクソン・ショックといわれています)する声明を発し、この時点で金本位制度は完全に終焉し、現在の変動為替制度に移行しました。

この変動為替制度を初めて採用したのはドイツでした。

5.ロンドン金市場

世界には、現物取引を扱うロンドン市場とチューリッヒ市場、先物取引を扱う ニュウヨーク、東京、シカゴ、香港、シンガポールの各市場があります。

このうち中心的な役割を果たしているのがロンドン金市場です。その実状は以下のとおりです。

  1. 金市場の値決めを行う人(price fixer)、正社員と呼ばれます。5社あります。
    精錬業2社…Rothschild&SonsとJohnsonMatthey
    ブローカー3社…Mocatta&Goldsmid, Samuel Montagu, Sharps Pixley
  2. Autjorized Dealer
    顧客からの注文を取り次ぐ英欄銀行のagentです。
  3. 値決めの方法
    特定の希望価格を指定する方式と成り行き次第でオッファーする方式の2種
    があります。決定された価格がofficial price となり毎日発表されます。
  4. その他
    売買単位は1bar, 価格は1オンス単位で表示、受け渡し日、場所、一日の取引量、代金支払い方法、ブローカーの手数料などの規定があります。

6.金をめぐるエピソード

①金の現送(ロンドンから東京へ)

1970年4月、私はNY事務所から本店外国局へ帰任しました。それから約半年後、
私は上司から呼び出され、「ロンドンにある金を本行金庫に搬入する。

現送の手順、現場での指揮は一切任せる。本件は超極秘事項。よろしく」との命令を受けました。

ロンドンの日銀駐在事務所が長年にわたり買い集めた金を東京に運び入れるわけです。FRBやIMFからの金買入れは通常「イヤマーク」(FRBの金庫にある金の所有者等を示す名札)の書換えで済み、現物は動きません。

「今回の金の売主は民間業者だな」とすぐピンときました。現送すると口で言うのは簡単ですが、参考となる前例はまったくありませんでした。

Mission impossibleよいう言葉が一瞬頭のなかをよぎりました。JALとのチャーター機交渉、警察庁への保護依頼、保険契約、日通との陸上運搬交渉、MOF(当時の大蔵省)との打ち合わせ、などなど、前例の無い仕事は苦労の連続でした。

準備万端整って、寒風吹きすさ1971年1月、羽田空港でJAL機を迎えタラップを駆け上がりました。胴体の中を見てゾットしました。

何もないのです。一瞬「ハイジャック?、ロンドンから空気を運んできたのか」という言葉が頭の中をよぎりました。

しかし、金は無事運ばれてきました。金の塊(インゴット)の厚みはせいぜい数センチ、この金塊が飛行機の上下運動に揺れ動かないように、びっしり床に固定されていたのです(動けば墜落するそうです)。

総量○○トンの金塊がフォークリフトで機体から積み下ろされているのを見ながら、こんなものがよく空中に浮くものだなーと感心しました。

②日本の金買入れ

日本政府は、1980年代始め、当時の米国政府の資金繰りを助けるため大量に発行される米国債を買入れ(前述しましたが、このときドイツは金を買い入れました)、その結果増え続ける外貨準備の急増を抑えるため、金や債権をIMF, NY連邦準備銀行、米国財務省、世界銀行(IBRD)から次々と買い入れました(脱線しますが、私はこのIBRDに憧れ、ここで働くことを熱望していました。

初めてその玄関をくぐったときの感動をよく覚えています)。

私は、これらの事務の担当責任者の一員として、何回もNY, ワシントンと東京の間を行き来してその交渉に参画する機会を得ました。

上司から「超極秘事項」と念を押され、責任の重さに身の引き締まる思いがしました(出張の帰途、眠い目をこすりながら機内で報告書を書きました)。

不思議なことです。この仕事が縁となって、私は後年VISAへ招かれることになりました。

③ 米国某大銀行の触手

日銀NY事務所勤務中の出来事でした。実名を公表することは控えます。米国の大銀行の1つで東京にも支店を出しています。

この銀行の若手職員(仮にY氏と呼びます)とどこかのパーティーの席上で名刺を交換しました。その後食事をともにしたり、いろいろ参考になる資料などを頂いたりし、彼とは親しくお付き合いしていました。

当時私はよく、金をめぐる調査、交渉などの必要から、NY連邦準備銀行、ワシントンの連邦準備制度(BOARD)、IMF, IBRD、米国財務省,米国輸出入銀行をよく訪問していました。

ある日、BOARD出るとY氏が玄関で待っていました。まるで待ち伏せされているような感じがしました。「本店の偉い人があなたに逢いたがっている。

アポを頂きたい」との申し出がありました。立派な応接間に白髪の紳士が入ってきました。しばらく雑談してから彼は分厚いファイルを取り出しました。

米国の金に関連した資料がぎっしり詰まっていました。この役員は、私が金関係の仕事をしており関係機関に出入りしていることをよく知っていました。

「金にご興味がおありのようですね。参考になるはずです。差し上げます」、「一つ質問させてください。あなたは最近よくワシントンにお出かけのようです。

そのわけを聞かせて欲しい」と彼は切出しました。「早くも嗅ぎつけたか」とピンときました。

咽から手が出るような資料に未練を抱きながら、丁重に謝し、何も言わずに早々に退出しました。その後、Y氏の接触は遠のきました。

④米国ネヴァダ州の日本人金鉱経営者

米国のネヴァダ州にフロリダキャニオン鉱山とスタンダード鉱山があります。両者とも金鉱で年間に約1.7トンの金が産出されます。

これら2つの鉱山の経営者は日本人です。日本では、江戸時代の佐渡の金山が有名でしたが、ほとんど掘り尽くされて今では採算が合わなくなっています。

現在は鹿児島県の菱刈鉱山がわが国最大の金鉱で、金の推定埋蔵量は250トンと言われています。

⑤ドル記号$の由来

米ドルの記号、英語の大文字Sを串刺しにした「$」は、東ローマ帝国で用いられた「ソリドウス金貨」に由来していると伝えられています。

この金貨の流れを汲んで施行された英国の貨幣法が、1816年、シブリン金貨の発行を認め、金本位制が世界で初めて採用しました。

7.むすび

書きたいことはまだ沢山ありますが(NY事務所での離席率の高さ、NY連銀の図書室、ラガーディア空港でのバッテリーアウトなど)紙幅の関係もあり。

この辺りでストップします。前にもちょっと触れましたが、私は不思議に「gold」と縁がありました。

興味の赴くまま、そして恵まれた機会を最大限に利用して、金について飼料を集め、勉強してきました。

今回は、クレジットカードの話を中心とするはずでしたが、私のあだ名の「脱線」です、最後の話はいつのまにかgoldにシフトしてしまいました。

お許しください。以上で、私のささやかな体験談を終わりにします。メイファーズ(没法子)。ご愛読有難うございました。

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