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公開日: : 最終更新日:2015/12/08

カードバカ連載 カードあれこれ  第7回 「キャッシュレスは、個人消費だけの世界なの?」(前編)

半世紀近くクレレジットカード一筋に関わってきた“カードバカ”が、カードに関するあれこれを、独自の切り口で語ります。

                       カード研究家 小河俊紀

皆さん、こんにちは。カード研究家の小河です。この連載4回目「クレジットカードを最初に考案した人と、マイナンバー」の中で、19世紀後半に活躍した米国の作家エドワード・ベラミーの予言と対比しながら、カードの未来形と政府のマイナンバー構想について、持論を展開しました。

今回は、その時あえて解説しなかったベラミーの予言の積み残し部分を、前編・後編の2回に分けて深堀してみます。もちろん、独自の見解です。

ベラミーの積み残しとは?

130年も前に、ベラミーは21世紀のカード社会の到来を予言し、驚愕すべき正確さでほとんど的中させました(上表)。

彼は、クレジットカードの活用によって所得格差が解消することを夢見ていました。
「万人に豊かな生活を保証して、一方では欠乏というものをなくし、他方では富の蓄積をおさえたときに、この毒の根は絶たれました。」(「かえりみれば」P.163)

なぜなら、ベラミーは当時の世界を席巻した社会主義思想家でしたので、国家が富の生産(企業活動)と公平な配分を担う未来を想定していたからです。

しかし、20世紀に入って欧米諸国や日本は自由主義経済を選びました。

逆に、社会主義の計画経済を選んだ大国ロシア(旧ソ連)や中国は、皮肉にも経済活動の停滞を来しました。

それで、20世紀末に路線を修正し、自由主義経済の市場原理を取り入れて以降成長を加速しています。

国家の経済的繁栄にとっては、自由主義経済の方が優れているようです。

一方、自由主義経済の旗頭であるアメリカや日本は、21世紀に入ってベラミーの願望とは逆に、富める者が益々富む“弱肉強食社会”に傾斜してきました。

その指標である貧困率で見ると、債務超過で国家破綻が危ぶまれているギリシャより、何と今の日米両国は貧困率が高いのです。

国力と国民全体の公平な幸福が連動していないのです。(上表は、グローバルノート「貧困率 国際比較 統計・推移」。数値根拠はOECD。)

日本人の6人に1人が「貧困層」

別の指標として「家計のストック=貯蓄率」がありますが、バブルがはじけて以降、日本の家計貯蓄率は主要国の中で最低水準にまで低落しています。

世界の10%以上の資産を持つ国なのに、たった1億数千万人の生活を充足させられ ない国・日本。大企業と、わずか1%の富裕層が富を独占しているからです。

1990年のバブル崩壊によって、所得と貯蓄率の低落が消費停滞を招き、ますますデフレが進行してきた20年でした。

連載開始冒頭にも書いたとおり、すべての社会活力が失われてきた中で、個人消費を辛うじて下支えしてきたのが、他ならぬカードとインターネットだった、と私は確信しています。

超高齢化社会に突入し、労働人口が急速に減る今後、個人消費・企業間取引すべての決済構造の歪みや欠陥を根元から改革しないと、家計⇒日本経済はいずれ破綻するかもしれません。これから、その意味を徐々に紐解いてみます。

商取引は、すべて後払い

下図は、「日本の商取引循環図」です。分りやすくするため単純化していますが、長い歴史をもつ基本構造です。

小売⇒卸商社⇒製造業⇒労働賃金に至るまで、(個人消費を除き)商取引における買い手側の決済は基本的に後払いです。何かしらの方法で代金を後払いしているのが現実です。

それを裏付ける調査資料が下表です。少し古いデータですが、今でも傾向は大きく変わらないでしょう。(一般財団法人 商工総合研究所 「企業間信用と電子取引」)

ちなみに、「企業間信用」とは、売買当事者相対の古典的な掛売買(売掛・買掛決済)、もしくは手形決済です。大企業・中小企業ともに総取引額の12%弱を占めます。

「借入金・社債」は、金融機関ふくめ外部からの資金調達です。企業規模で違いますが、中小企業では総取引額の約半分(45.2%)にも達しています。

つまり、力関係や商品種別などの理由で、表面上取引当事者間は現金決済しているかもしれませんが、第三者的な借入先に対しては買い手が後払いで返済しているわけです。

逆に、自己資金決済は、大企業でも34.8%、中小企業では、何と25.5%しかありません。言い換えると、「企業経営とは、借金が普通」なのです。

ですから、もしこの後払い決済構造が維持できなければ、中小企業はもちろん、多くの企業の運転資金は枯渇し、息の根は止まってしまいます。

個人の労働報酬も後払いが基本

個人消費者の多くが、一般的に給与生活者です。その賃金は、勤務先から1ケ月分後払いで支給されます。リタイアした後に支給される厚生年金でさえ、後払いです。

ですから、個人消費面で現金中心(自己資金の立替払い)生活を続ければ、給料日前に家計費が枯渇します。

人体で言えば、血流のリスムが崩れる虚血症、不整脈、もしくは酸欠(病気)に陥ることは当然の理屈なのです。小売店側も、給料日直後に売上が集中し、給料日直前は暇になり経営が不効率になります。

日本は、明治以来140年にもわたって、国策で「現金払いと貯蓄」を奨励してきました。欧米諸国に追いつくための軍備・国家インフラ整備資金として、国民の膨大な貯金を国債の形で吸い上げ、役立てました。

あめに、世界第3位の経済大国になった今でも「現金払いは健全で、後払いは不健全」という時代錯誤が続いています。実に大きな錯覚です。

「キャッシュフロー面で、現金払いの方がむしろ不健全」なのです。

超現金社会ミャンマー

先日の朝日新聞で「家も車も現金払い ミャンマー、驚きの札束社会」との見出しで、一切の商取引で現ナマしか信用されない同国の現状が報じられていました。

東南アジアで、次の成長市場として注目が集まるミャンマーですが、肝心の金融機関に信用がありません。2003年に起きた取り付け騒ぎが背景にあるようです。

経営者や庶民の多くは、会社や自宅の金庫に現ナマを保管しているため、口座所持率が1~2割程度。
金融機関は企業にお金を貸し出す資金がなく、経済活動がなかなか活性化しません。

現金を管理する非効率は、あらゆる場面で見られ、同国の近代化を妨げているようです。日本は幸いに銀行の信用があるので、そこまでひどくないですが、カードの世界でさえ現金崇拝社会固有の不思議なサービスがあります。

例えば、「キャッシングサービス」と「加盟店売上早期資金化」。

本来は、旅先などで不意な出費をカバーする“ちょい借り(つなぎ融資)”だったカードキャッシングは、近年 生活費補填等に利用する人が増え、固定層を形成しています。

(平成24年実績で、年間2.3兆円、カード利用総額の5.5%相当。改正貸金業法でキャッシングが規制される前の平成15年段階では、7.5兆円、何と総利用額の24%でした! ※いずれも(社)日本クレジット協会資料

言い換えると、それは後払いニーズの高まりと、カードがどこでも気軽に使えない現実を物語っています。(下記は、(株)日本統計センター「貸金業利用者に関する調査・研究」2014年10月資料)

また、カード加盟店でのカード売上はカード会社から原則半月~1ケ月後に入金されますが、最近はいろいろな決済代行サービスが登場し、商品回転率の高い飲食店はじめ「1週間後入金」が普及してきました。

主な理由は、「次の仕入れ資金を確保」するためです。前記の資料のように、現金でなければ好条件で仕入れできない商取引が多いからです。

カード会社に加盟店手数料を数パーセント引かれ、資金化が遅いため、カード客を嫌う零細な小売店や飲食店が多いのです。この課題を解消しない限り、現金の優位性はなかなか揺るがないでしょう。

真のキャッシュレス社会とは?

2020年東京オリンピックに向けて、世界でも先進的なキャッシュレス社会の実現が 国策となりました。

政府の旗振りで、クレジットカードを基本に、デビットカード、プリペイドカード等各種カード決済が普及し、底堅い現ナマ崇拝の文化を変え、日本経済が活性化するなら大歓迎です。

しかし、個人消費のキャッシュレス化だけを追求すれば、それで万全なのでしょうか?それは、間違いです。なぜなら、先ほど例示した古典的仕入決済手法である「企業間信用」「借入金・社債」いずれも、多くの問題点を抱えており、時代の変化に追い付けていないからです。

そのツケは、多くの零細な事業者と消費者に回っています。商流は、人体のようにすべて連鎖しているからです。連鎖の要素を総点検し、枠組みをアップデートすることが不可欠です。

課題解決への持論をズバリ図解したものが、下図です。カード業務に携わって43年、これが私のたどり着いたひとつの結論です。

「いったい、こんなに単純なフローチャートが、従来の商取引決済構造全体を大きく変えることができるか?」と疑問に思われたかもしれません。

次回は、その意味と展開イメージ(具体例)を、極力分りやすく解説してみたいと思います。ご期待ください。

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